栽培ネギの野生種は見当たりませんが、中国西部の原産説が普通です。耐寒性があり中国北部、シベリアでも越冬が可能です。また夏期には高温地帯では生産停止をしますが、作物自身の耐暑性は強い方です。
関東では白ネギともいわれる根深ネギが発展しており、関西では青ネギ(代表品種「九条」)が多く栽培されています。小型で栽培する小ネギは関西に多かったのですが、最近は関東・東北でも栽培は増加しています。また、関東・東北で栽培が多かった根深ネギ栽培も最近は西南暖地でも増加しています。
日本の技術移転による中国産の根深ネギ輸入が激増し、国産の収益性に大きな影響を与えています。以前農林水産省でネギは和風の野菜であるため、タマネギの発展により衰退するとの予想がありましたが、全く当たらず、特に根深ネギ産地はつぎつぎ栽培を拡大し、輸入品が入るまでは比較的高い収益性を維持していました。
中国産ネギは、以前は品質不良でしたが今では日本の有名産地が驚くほど品質が向上しています。これは、日本の商社が日本の技術者を使い日本の種子を用いて日本式の栽培を行ったためで、当然なことです。最近輸入は若干遠慮をしているように見受けられますが、タマネギ・ゴボウ等が急増しています。日本で「ポジティブリスト」制が敷かれたので輸入も一頓挫しているようです。
固定種としては「吉蔵」「元蔵」「宏太郎」「長悦」等が有名ですが、最近は「夏扇」などのF1品種が増加しています。5月~7月出荷は「坊主知らず」が普及していますが品質に問題があり、「長悦」や最近のF1品種(「春扇」「いさお」など)で上手な栽培を行い品質の良いもので、有利な端境期出荷も可能になっています。特に茨城県の岩井市では「春扇」や「いさお」が大幅に増加しています。また、「下仁田」のような白色部分が太く短いヌメリの強いものや、「加賀」のような柔らか過ぎて風に折れ易いが品質佳良の品種も存在します。
「博多万能ネギ」(福岡県)や「やっこネギ」(高知県)のような小ネギ栽培が増加してきました。以前は薬味程度の用途でしたが、日本料理や中華料理にも盛んに使用されるようになり、用途の増加に合わせて産地も増えてきました。東日本にも産地が広がり、千葉、静岡、茨城、宮城、埼玉などで産地化が進んでいます。西日本でも大分、佐賀などに大きな産地があります。
最近新しい栽培として、ハウス軟白ネギが特に北海道・青森の寒地に普及、面積を増加させています。特に北海道は暖房までして東京の良質品の端境期である6~7月に出荷し、高単価を得ています。青森でもこれに準じた栽培が行われています。軟白資材として以前はモミガラを使用していましたが、現在では白黒のポリエチレンの使用が殆どです。
埼玉県、特に深谷地区は日本一のネギの産地で有名ですが、最近産額で茨城県に迫られています。また新潟など海岸砂丘地ではきれいなネギが作れます。新潟のネギは10~11月の出荷期の味は関東産を凌駕していましたが、残念ながら東京市場に出荷は減少しています。新潟では「やわ肌ねぎ」の登録商標ですが、時期によっては「堅肌ねぎ」!?のおそれがあります。枝豆やサトイモとともに県の指導で伸びた作物ですが、中国からの輸入で一頓挫の感があります。大阪市場では平成14~17年とも中国産が輸入のトップであり、北海道、鳥取、静岡、大分、大阪、石川、鹿児島、群馬の順で、東の御三家千葉、茨城、埼玉は依然健在ですが、中国産は平成14年産5位、15年産5位、16年産4位、17年産4位とかなりの力で進出しています。
ネギは案外各種障害を受け易いものです。特に湿害に弱く、消えたり痩せたりの被害が出ます。軟腐病は排水不良地に多く、特に水田転作で大きな被害が生じています。連作地ではフザリウム菌による萎凋病が発生し、数年前から小菌核腐敗病も被害が始まっています。さび病は早期発見の防除が必要です。また黒斑病・べと病も多く発生します。
害虫ではネギのアザミウマ(スリップス)やアブラムシの被害も多発しています。生理障害ではカルシウム欠乏による先端の葉枯症が目立ちます。特に乾燥気味の天候が続くと被害が多くなります。
最近は機械化一貫栽培も実用化されてきましたが、専用の培土機(写真(12))など広く使用されています。ただ大産地深谷で定植機に写真(13)、(14)のような簡単な工夫の機械というよりは道具が使用されているのは、興味がもてます。立派な機械よりコストダウンでは大きく貢献しているといえます。
まず写真13の左の人間が2列の棒状の機器で穴をあけ、(14)の人間が腰を下ろし座った滑車で、後ずさりをしながら定植(只差し込むだけ)していくという、まことに簡単な方法です。深谷は大苗定植なので、このような方法が採られているのでしょう。
育苗の機械化については、播種から定植まで各種装置を利用した一貫方式も考案され、各社の方式もありますが、幼苗定植の方式が多く、埼玉県のような大苗定植の方式には適合できません。
現在住友化学のネギ栽培用の肥料は、DCSをアンモニア態窒素に対して3.75%含む「CRスミカエース10」や、被覆肥料を組み合わせた「スーパーSRコート」の2種がもっとも広く利用されています。
ネギは比較的寒冷な気候を好み、本州では殆ど夏期には生育停止をし、涼しい北海道では夏の生育停止は非常に少なくなります。ネギ栽培によく利用されるDCS入り肥料はアンモニア栄養する作物および急な硝酸態窒素の溶出を必要としない作物に適しています。
「CRスミカエース10」利用の栽培では、肥効が60~40日程度ですので、多くの場合追肥を必要とします。しかし下記の囲みに記したDCSの効果で、優れた効果を示します。ただし、注意すべき点も見られますので、詳しくは後で説明します。
日本一の根深ネギの産地、深谷で県知事賞を2回も受賞したネギには「CRスミカエース10」が使用されています。特に栽培中、葉のバラケが非常に少ないのは大きな特徴です。
DCSの効果
住友化学で販売されている「スミカエース」等に利用されている硝酸化成抑制材のことで、他社の抑制材に比較して多くの特徴があります。
DCSの硝酸化成抑制材そのものとしての効果は、多くの抑制材の効果が落ち込む夏期でも、ある程度の量を使用すれば効果の落ち込みは少なくすみます。
DCSは土中で徐々に気化してDCAとなり効果を表すので<孔隙量(特に気相)の大きい土(荒砂・花崗石の風化土)では効果が落ちます。しかしこれらの土地でも腐植分を増大し、CEC(塩基交換容量)を高めることによって、効果を高めることができます。
他社の硝酸化成抑制材には見られない副次的効果として
「CRスミカエース10」は当初高温期の肥料の効果継続日数を60日と判断し、従来の4~6回追肥をしていたものを2~3回で十分として普及に移しました。しかし使用上注意すべき点も明らかになってきたので、まとめてみます。
(使用法)色が出にくいのは晴天続きで肥料がよく吸収されていない場合もあるので、施肥後は潅水を行いその後、畑を乾かすと色の出が良くなります。収穫期が近づくほど施肥の絶対量は減らしていきます。スミカエース1号、2袋/10aの追肥は収穫50日前から25日前頃まで随時可能ですが、遅くするとアンモニア態窒素をネギが吸いきれないうちに収穫になることがあります。「硝燐加特2号」20~30kg(1袋)N=3.2~4.8kg/10a硝酸カルシウム肥料(カルダッチ等)(1/2)N=1.55kg/10a、「スミライム」1カートン(15kg)N=1.05kg/10aを基準とします。20日前までの施肥は生産増進や、やや軟化の意味もありますが、12日以降の追肥は色出しが主体です。
スーパーSRコート肥料では、「夏秋どり白ネギ専用722」「秋冬どり白ネギ専用922」「越冬ネギ専用733」「コネギ専用644」が販売されています。寒地の春早い栽培や暖地の冬栽培の全量元肥栽培は「722」が最も適しています。関東・東北での遅い時期の定植用や、暖地の普通栽培では「922」が適しています。また「733」は6~7月どりで「坊主不知」の品質の悪い時期に優良品を販売しようとするもので、「春扇」「いさお」「長悦」の越冬トンネル栽培に適しています。この栽培は年内に苗を鉛筆以上の太さにしないことが重要で、「733」の成分はこの栽培に向いています。コネギ専用には「644」が使用されています。
肥料名 | 総量 | 元肥 | 追肥 | 三要素成分量 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
第1回 | 第2回 | 第3回 | 第4回 | N | P2O5 | K2O | |||
CRスミカエース10 | 200~ | 200~240 | 全量元肥 | 20.0~ | 20.0~ | 20.0~ | |||
240 | 200 | 24.0 | 24.0 | 24.0 | |||||
施肥期 |
耕起時全園 全層施肥 |
計 | 20.0~ | 20.0~ | 20.0~ | ||||
24.0 | 24.0 | 24.0 |
(*単位:Kg/10a)
注:
(1)上記のほか完熟堆肥、石灰資材適量を施します。
(2)上記設計は荒砂の土地には適しません。
肥料名 | 総量 | 元肥 | 追肥 | 三要素成分量 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
第1回 | 第2回 | 第3回 | 第4回 | N | P2O5 | K2O | |||
CRスミカエース10 | 180 | 180 | - | - | - | - | 18.0 | 18.0 | 18.0 |
スミカエース1号 | 40 | - | - | - | 40 | - | 7.2 | 4.0 | 5.6 |
施肥期 |
耕起時全園 全層施肥 |
収穫50~25日前 | 計 | 25.2 | 22.0 | 23.6 |
(*単位:Kg/10a)
注:
(1)上記のほか完熟堆肥、石灰資材適量を施します。
(2)追肥は土寄せと同時に行います。
肥料名 | 総量 | 元肥 | 追肥 | 三要素成分量 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
第1回 | 第2回 | 第3回 | 第4回 | N | P2O5 | K2O | |||
CRスミカエース10 | 140 | 140 | - | - | - | - | 14.0 | 14.0 | 14.0 |
スミカエース1号 | 40 | - | - | - | 40 | - | 7.2 | 4.0 | 5.6 |
硝燐加2号 | 40 | - | - | - | - | 20 | 3.2 | 1.6 | 2.8 |
施肥期 |
耕起時全園 全層施肥 |
11月中 | 翌早春 | 計 | |||||
24.4 | 19.6 | 22.4 |
(*単位:Kg/10a)
注:
(1)上記のほか完熟堆肥、石灰資材適量を施します。
(2)追肥は土寄せと同時に行います。
肥料名 | 総量 | 元肥 | 追肥 | 三要素成分量 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
第1回 | 第2回 | 第3回 | 第4回 | N | P2O5 | K2O | |||
夏秋どり専用722 | 140 | 140 | - | - | - | - | 24.4 | 16.8 | 16.8 |
施肥期 |
初期肥効のため 前面施肥+活着後の 株横施肥 |
計 | 24.4 | 16.8 | 16.8 |
(*単位:Kg/10a)
注:
(1)上記のほか完熟堆肥、石灰資材適量を施します。
(2)寒地で秋冬どりを行う場合は、追肥を必要とする場合があります。
肥料名 | 総量 | 元肥 | 追肥 | 三要素成分量 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
第1回 | 第2回 | 第3回 | 第4回 | N | P2O5 | K2O | |||
住化ネギ用SSR733 | 160 | 160 | 全量元肥 | 27.2 | 20.8 | 20.8 | |||
施肥期 |
初期肥効のため 前面施肥+活着後の 株横施肥 |
計 | 27.2 | 20.8 | 20.8 |
(*単位:Kg/10a)
注:
(1)品種は春扇、いさお、長悦を使用します。
(2)は種は10月中旬頃とします。
(3)定植は12月上旬とします。
(4)トンネルはすそ明きとします。
(5)越冬時の苗は鉛筆以上の太さにしないように。
(6)上記のほか完熟堆肥、石灰資材適量を施します。
(7)土改剤は栽培地の事情により選定します。
(8)土質により収穫まで肥効が続かないような場合は、3、4月頃スミカエース1号を2袋/10a追肥を行います。