本格的な野菜作り

VOL.12
ネギのすべて

来歴と品種、簡単な栽培法

  1. 栽培の歴史と現況
  2. 最近の大問題、中国産ネギの輸入増加
  3. 「根深ネギ」品種の傾向
  4. 増加してきた小ネギ栽培
  5. ネギ栽培の特徴と問題点
  6. 多い病害や障害
  7. 進む機械化
  8. 施肥
    1. 施肥の考え方
    2. 「CRスミカエース10」利用の栽培
    3. 「CRスミカエース10」使用上の注意
    4. SSR肥料の既製、全国販売品
    5. ネギ本畑に対する施肥

1栽培の歴史と現況

写真(1)新潟県神林村の「やわ肌ねぎ」
写真(1)
新潟県神林村の「やわ肌ねぎ」

栽培ネギの野生種は見当たりませんが、中国西部の原産説が普通です。耐寒性があり中国北部、シベリアでも越冬が可能です。また夏期には高温地帯では生産停止をしますが、作物自身の耐暑性は強い方です。
関東では白ネギともいわれる根深ネギが発展しており、関西では青ネギ(代表品種「九条」)が多く栽培されています。小型で栽培する小ネギは関西に多かったのですが、最近は関東・東北でも栽培は増加しています。また、関東・東北で栽培が多かった根深ネギ栽培も最近は西南暖地でも増加しています。
日本の技術移転による中国産の根深ネギ輸入が激増し、国産の収益性に大きな影響を与えています。以前農林水産省でネギは和風の野菜であるため、タマネギの発展により衰退するとの予想がありましたが、全く当たらず、特に根深ネギ産地はつぎつぎ栽培を拡大し、輸入品が入るまでは比較的高い収益性を維持していました。

2最近の大問題、中国産ネギの輸入増加

中国産ネギは、以前は品質不良でしたが今では日本の有名産地が驚くほど品質が向上しています。これは、日本の商社が日本の技術者を使い日本の種子を用いて日本式の栽培を行ったためで、当然なことです。最近輸入は若干遠慮をしているように見受けられますが、タマネギ・ゴボウ等が急増しています。日本で「ポジティブリスト」制が敷かれたので輸入も一頓挫しているようです。

3「根深ネギ」品種の傾向

写真(2)「加賀」ねぎ 風に折れ易い
写真(2)
「加賀」ねぎ 風に折れ易い

固定種としては「吉蔵」「元蔵」「宏太郎」「長悦」等が有名ですが、最近は「夏扇」などのF1品種が増加しています。5月~7月出荷は「坊主知らず」が普及していますが品質に問題があり、「長悦」や最近のF1品種(「春扇」「いさお」など)で上手な栽培を行い品質の良いもので、有利な端境期出荷も可能になっています。特に茨城県の岩井市では「春扇」や「いさお」が大幅に増加しています。また、「下仁田」のような白色部分が太く短いヌメリの強いものや、「加賀」のような柔らか過ぎて風に折れ易いが品質佳良の品種も存在します。

4増加してきた小ネギ栽培

写真(3)茎が太い「下仁田」の系統
写真(3)
茎が太い「下仁田」の系統

「博多万能ネギ」(福岡県)や「やっこネギ」(高知県)のような小ネギ栽培が増加してきました。以前は薬味程度の用途でしたが、日本料理や中華料理にも盛んに使用されるようになり、用途の増加に合わせて産地も増えてきました。東日本にも産地が広がり、千葉、静岡、茨城、宮城、埼玉などで産地化が進んでいます。西日本でも大分、佐賀などに大きな産地があります。

写真(4)博多万能ネギのハウス(小ネギ)
写真(4)
博多万能ネギのハウス(小ネギ)
写真(5)宮城県涌谷のハウス(小ネギ)
写真(5)
宮城県涌谷のハウス(小ネギ)

5ネギ栽培の特徴と問題点

最近新しい栽培として、ハウス軟白ネギが特に北海道・青森の寒地に普及、面積を増加させています。特に北海道は暖房までして東京の良質品の端境期である6~7月に出荷し、高単価を得ています。青森でもこれに準じた栽培が行われています。軟白資材として以前はモミガラを使用していましたが、現在では白黒のポリエチレンの使用が殆どです。
埼玉県、特に深谷地区は日本一のネギの産地で有名ですが、最近産額で茨城県に迫られています。また新潟など海岸砂丘地ではきれいなネギが作れます。新潟のネギは10~11月の出荷期の味は関東産を凌駕していましたが、残念ながら東京市場に出荷は減少しています。新潟では「やわ肌ねぎ」の登録商標ですが、時期によっては「堅肌ねぎ」!?のおそれがあります。枝豆やサトイモとともに県の指導で伸びた作物ですが、中国からの輸入で一頓挫の感があります。大阪市場では平成14~17年とも中国産が輸入のトップであり、北海道、鳥取、静岡、大分、大阪、石川、鹿児島、群馬の順で、東の御三家千葉、茨城、埼玉は依然健在ですが、中国産は平成14年産5位、15年産5位、16年産4位、17年産4位とかなりの力で進出しています。

写真(6)新潟県の「やわ肌ねぎ」の荷姿
写真(6)
新潟県の「やわ肌ねぎ」の荷姿
写真(7)日本一、埼玉県「深谷ねぎ」の荷姿
写真(7)
日本一、埼玉県「深谷ねぎ」の荷姿
写真(8)ハウス軟白ネギ(モミガラ利用の青森)
写真(8)
ハウス軟白ネギ
(モミガラ利用の青森)
写真(9)ハウス軟白ネギ(黒白のスカートの函館七飯)
写真(9)
ハウス軟白ネギ
(黒白のスカートの函館七飯)

6多い病害や障害

ネギは案外各種障害を受け易いものです。特に湿害に弱く、消えたり痩せたりの被害が出ます。軟腐病は排水不良地に多く、特に水田転作で大きな被害が生じています。連作地ではフザリウム菌による萎凋病が発生し、数年前から小菌核腐敗病も被害が始まっています。さび病は早期発見の防除が必要です。また黒斑病・べと病も多く発生します。

害虫ではネギのアザミウマ(スリップス)やアブラムシの被害も多発しています。生理障害ではカルシウム欠乏による先端の葉枯症が目立ちます。特に乾燥気味の天候が続くと被害が多くなります。

写真(10)さび病の被害株
写真(10)
さび病の被害株
(黒白のスカートの函館七飯)
写真(11)先端の葉枯れは乾燥によるカルシウム欠
写真(11)
先端の葉枯れは乾燥による
カルシウム欠

7進む機械化

最近は機械化一貫栽培も実用化されてきましたが、専用の培土機(写真(12))など広く使用されています。ただ大産地深谷で定植機に写真(13)、(14)のような簡単な工夫の機械というよりは道具が使用されているのは、興味がもてます。立派な機械よりコストダウンでは大きく貢献しているといえます。

まず写真13の左の人間が2列の棒状の機器で穴をあけ、(14)の人間が腰を下ろし座った滑車で、後ずさりをしながら定植(只差し込むだけ)していくという、まことに簡単な方法です。深谷は大苗定植なので、このような方法が採られているのでしょう。

写真(12)ネギ培土専用機
写真(12)
ネギ培土専用機
写真(13)簡易定植システム(1)
写真(13)
簡易定植システム(1)
写真(14)簡易定植システム(2)
写真(14)
簡易定植システム(2)

育苗の機械化については、播種から定植まで各種装置を利用した一貫方式も考案され、各社の方式もありますが、幼苗定植の方式が多く、埼玉県のような大苗定植の方式には適合できません。

8施肥

8-1 施肥の考え方

現在住友化学のネギ栽培用の肥料は、DCSをアンモニア態窒素に対して3.75%含む「CRスミカエース10」や、被覆肥料を組み合わせた「スーパーSRコート」の2種がもっとも広く利用されています。
ネギは比較的寒冷な気候を好み、本州では殆ど夏期には生育停止をし、涼しい北海道では夏の生育停止は非常に少なくなります。ネギ栽培によく利用されるDCS入り肥料はアンモニア栄養する作物および急な硝酸態窒素の溶出を必要としない作物に適しています。

8-2 「CRスミカエース10」利用の栽培

「CRスミカエース10」利用の栽培では、肥効が60~40日程度ですので、多くの場合追肥を必要とします。しかし下記の囲みに記したDCSの効果で、優れた効果を示します。ただし、注意すべき点も見られますので、詳しくは後で説明します。

日本一の根深ネギの産地、深谷で県知事賞を2回も受賞したネギには「CRスミカエース10」が使用されています。特に栽培中、葉のバラケが非常に少ないのは大きな特徴です。

DCSの効果

住友化学で販売されている「スミカエース」等に利用されている硝酸化成抑制材のことで、他社の抑制材に比較して多くの特徴があります。

DCSの硝酸化成抑制材そのものとしての効果は、多くの抑制材の効果が落ち込む夏期でも、ある程度の量を使用すれば効果の落ち込みは少なくすみます。

DCSは土中で徐々に気化してDCAとなり効果を表すので<孔隙量(特に気相)の大きい土(荒砂・花崗石の風化土)では効果が落ちます。しかしこれらの土地でも腐植分を増大し、CEC(塩基交換容量)を高めることによって、効果を高めることができます。

他社の硝酸化成抑制材には見られない副次的効果として

  1. 「根張り」の向上(旱魃に強い)。
  2. ガッチリ育つ(荷姿が良く市場出荷に有利)
  3. 有機との相性のよさ(密閉施設内でも未発酵有機との併用で、ガス害を防ぎます。従ってガス化しない窒素で肥効を高めることになります)。
  4. 味を良くする。タマネギ、バレイショ、葉菜・根菜・果菜のキュウリなど確実に食味を高めます。

8-3 「CRスミカエース10」使用上の注意

「CRスミカエース10」は当初高温期の肥料の効果継続日数を60日と判断し、従来の4~6回追肥をしていたものを2~3回で十分として普及に移しました。しかし使用上注意すべき点も明らかになってきたので、まとめてみます。

その1
「黒ぼく土壌・粘質土・砂壌土(CEC=20程度以上)では高温期に60日の肥効がありますが、砂土(特に海成未熟土=CEC10程度かそれ以下)では40日程の肥効となります。また高温期に砂壌土・砂土とも降水量が多いと肥効が特に短くなります。CECの低い粘土鉱物が少ない砂質土では流亡が早くなります。
夏期の60日持続は、土壌の特性・気地温・降水等の気象条件・CECの多少によっても差があることを認識し、追肥は場合によっては40日程度に間隔を詰めます。しかし利根川沖積のような砂壌土は、微砂であることと土改材で土作りもできているので、「CRスミカエース10」の肥効はかなり長くなります。
その2
「CRスミカエース10」で栽培したネギは、市場出荷でA品が多くなる反面「緑色部分の色の出がイマイチである」とか、製品の締まりは良く味も良いが、「やや食感が固いのではないか」と指摘を受けることがあります。アンモニア栄養の問題点として、葉色がやや薄く経過することが多いのです。これは末期に硝酸性の肥料の施肥で葉色の改善が図られます。また締まりが良いのはDCSの特性からです(先述)。しかしやや固いネギを消費者に提供してしまうことは困ったことにもなりかねません。この対策としては、最終追肥の改善でかなり解決が出来ることが分かりましたので、今後は下図のような施肥法で最終の追肥を図ります。特に硝酸系の肥料はDCSと関係無く着色を早めます。また軟化で食味の改善も図られます。

(使用法)色が出にくいのは晴天続きで肥料がよく吸収されていない場合もあるので、施肥後は潅水を行いその後、畑を乾かすと色の出が良くなります。収穫期が近づくほど施肥の絶対量は減らしていきます。スミカエース1号、2袋/10aの追肥は収穫50日前から25日前頃まで随時可能ですが、遅くするとアンモニア態窒素をネギが吸いきれないうちに収穫になることがあります。「硝燐加特2号」20~30kg(1袋)N=3.2~4.8kg/10a硝酸カルシウム肥料(カルダッチ等)(1/2)N=1.55kg/10a、「スミライム」1カートン(15kg)N=1.05kg/10aを基準とします。20日前までの施肥は生産増進や、やや軟化の意味もありますが、12日以降の追肥は色出しが主体です。

8-4 スーパーSRコート肥料の既製、全国販売品

スーパーSRコート肥料では、「夏秋どり白ネギ専用722」「秋冬どり白ネギ専用922」「越冬ネギ専用733」「コネギ専用644」が販売されています。寒地の春早い栽培や暖地の冬栽培の全量元肥栽培は「722」が最も適しています。関東・東北での遅い時期の定植用や、暖地の普通栽培では「922」が適しています。また「733」は6~7月どりで「坊主不知」の品質の悪い時期に優良品を販売しようとするもので、「春扇」「いさお」「長悦」の越冬トンネル栽培に適しています。この栽培は年内に苗を鉛筆以上の太さにしないことが重要で、「733」の成分はこの栽培に向いています。コネギ専用には「644」が使用されています。

8-5 ネギ本畑に対する施肥

(a)施肥の考え方
一般地では、26kg/10a程度の窒素を必要としますが、肥沃地では18kg/10aで十分の場所もあります。このような場所では多肥にしても増収にはつながりません。優れた有機質の土改材が入っている状態では、早生ネギで、「CRスミカエース10」を使用して20~24kg/10aの全量元肥栽培も可能です。ただし土作りが十分でない場合は、最終の色出しの追肥が必要です(前項参照)。大苗定植と小苗定植では、施肥量も異なってきます。
(b)本畑の具体的な施肥例(「CRスミカエース10」利用)
〔施肥設計1〕根深ネギ〔冲積土〕早掘り(10月下旬収穫まで) 
肥料名 総量 元肥 追肥 三要素成分量
第1回 第2回 第3回 第4回 N P2O5 K2O
CRスミカエース10 200~ 200~240 全量元肥 20.0~ 20.0~ 20.0~
240 200 24.0 24.0 24.0
施肥期   耕起時全園
全層施肥
      20.0~ 20.0~ 20.0~
24.0 24.0 24.0

(*単位:Kg/10a)

注:
(1)上記のほか完熟堆肥、石灰資材適量を施します。
(2)上記設計は荒砂の土地には適しません。

〔施肥設計2〕根深ネギ〔冲積土〕普通掘り(12月下旬収穫まで) 
肥料名 総量 元肥 追肥 三要素成分量
第1回 第2回 第3回 第4回 N P2O5 K2O
CRスミカエース10 180 180 18.0 18.0 18.0
スミカエース1号 40 40 7.2 4.0 5.6
施肥期   耕起時全園
全層施肥
    収穫50~25日前 25.2 22.0 23.6

(*単位:Kg/10a)

注:
(1)上記のほか完熟堆肥、石灰資材適量を施します。
(2)追肥は土寄せと同時に行います。

〔施肥設計3〕根深ネギ〔冲積土〕遅掘り(3月下旬収穫まで)
肥料名 総量 元肥 追肥 三要素成分量
第1回 第2回 第3回 第4回 N P2O5 K2O
CRスミカエース10 140 140 14.0 14.0 14.0
スミカエース1号 40 40 7.2 4.0 5.6
硝燐加2号 40 20 3.2 1.6 2.8
施肥期   耕起時全園
全層施肥
    11月中 翌早春
24.4 19.6 22.4

(*単位:Kg/10a)

注:
(1)上記のほか完熟堆肥、石灰資材適量を施します。
(2)追肥は土寄せと同時に行います。

〔施肥設計4〕夏秋どり白ネギ専用722の利用 
肥料名 総量 元肥 追肥 三要素成分量
第1回 第2回 第3回 第4回 N P2O5 K2O
夏秋どり専用722 140 140 24.4 16.8 16.8
施肥期 初期肥効のため
前面施肥+活着後の
株横施肥
      24.4 16.8 16.8

(*単位:Kg/10a)

注:
(1)上記のほか完熟堆肥、石灰資材適量を施します。
(2)寒地で秋冬どりを行う場合は、追肥を必要とする場合があります。

〔施肥設計5〕根深ネギ〔沖積土〕5月下旬~6月収穫(坊主不知は不使用)(春扇など使用) 
肥料名 総量 元肥 追肥 三要素成分量
第1回 第2回 第3回 第4回 N P2O5 K2O
住化ネギ用SSR733 160 160 全量元肥 27.2 20.8 20.8
施肥期 初期肥効のため
前面施肥+活着後の
株横施肥
      27.2 20.8 20.8

(*単位:Kg/10a)

注:
(1)品種は春扇、いさお、長悦を使用します。
(2)は種は10月中旬頃とします。
(3)定植は12月上旬とします。
(4)トンネルはすそ明きとします。
(5)越冬時の苗は鉛筆以上の太さにしないように。
(6)上記のほか完熟堆肥、石灰資材適量を施します。
(7)土改剤は栽培地の事情により選定します。
(8)土質により収穫まで肥効が続かないような場合は、3、4月頃スミカエース1号を2袋/10a追肥を行います。

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