ヨーロッパ・北アメリカ東部・南米チリーの野生種が栽培の起源(14世紀)。現在の栽培種はフランスの育成(18世紀)です。その後オランダやイギリスでも栽培種が育成され、アメリカでは17世紀から野生種が馴化栽培され、本格的栽培はヨーロッパ栽培種が導入されてからです。
平安時代から野生種を食用。本格的な栽培種の導入は江戸時代末期からといわれています。明治初期には北海道開拓使や勧農寮が導入するも普及せず。1889(明22)福羽逸人によりフランスから「ゼネラルサンジー」種が導入され、「福羽」種はこの品種から育成されました。最初は天皇家用で、その後の石垣イチゴの元祖となりました。新潟園試育成の「阿賀」は「福羽」を利用し、萩原農場育成の「章姫」も先祖は「福羽」です。
以前の品種は殆どアメリカからの導入種で西のマーシャル、東のフェアファックスが代表的品種です。近年まで流通したダナーは実が固く輸送が容易でした。夏どりに特異的な加工品種「ワサ」(WASA)は秋田湯沢のことです。栄養繁殖するヘテロのイチゴは依然官庁育種が大部分です。東の「女峰」、西の「とよのか」時代がきました。
「とよのか」から育成した「桃園2号」、台湾では北部梨山の麓「太湖県」に大産地があります。日本の施設利用の作型(促成栽培)が露地で可能です。輸入されたら競争にならない?しかし病害が広がり問題となっています。付近にはナシの花接ぎ栽培が行われ、穂木は日本から輸入されています。
今栽培されている品種の主要なもの
栃木に「とちおとめ」が急速に普及して「女峰」に代わっています。「女峰」は影をひそめました。九州の「とよのか」に代わる品種として「さちのか」や「さがほのか」が台頭。福岡の「あまおう」も大人気です。しかし産地で品質に大きな差があります。民間育種品種としてアイベリーが気を吐いており、この品種の育成過程で見いだされた大果性を利用しています。「あきひめ(章姫)」は民間育種のチャンピオンでたしかに甘い。適品種が無かった東北・北陸で「宝交早生」「盛岡16号」の半促成用途に栽培されています。新潟では地産地消の典型の「越後姫」があります。輸送性はやや低いですが「越後姫」の味は甘酸適和で実にうまい。いまや地産地消の時代。新潟に来なければ食べられないでも良いではないかとの意見もあります。
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過去の有名品種と露地用品種
品種名
年次
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女蜂 | アイベリー | とちおとめ | とよのか | はるよい | 盛岡16号 | 麗江 | ダナー | 宝交早生 | はるのか |
イチゴ年間 総入荷量 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1981 | - | - | - | - | - | - | 3,436 | 10,147 | 6,667 | 4,329 | 26,102 |
1982 | - | - | - | - | - | - | 4,432 | 8,306 | 6,369 | 5,554 | 26,783 |
1983 | - | - | - | - | - | 1,073 | 5,243 | 6,516 | 5,140 | 3,752 | 24,512 |
1984 | - | - | - | - | - | 726 | 7,496 | 5,892 | 5,665 | 3,385 | 27,726 |
1985 | - | - | - | - | - | 851 | 6,706 | 5,173 | 4,446 | 1,014 | 26,213 |
1986 | 5,763 | - | - | 6,246 | 375 | 1,030 | 5,022 | 4,309 | 3,821 | 216 | 29,785 |
1987 | 13,314 | - | - | 8,082 | 63 | 660 | 2,381 | 2,785 | 869 | 2 | 30,192 |
1988 | 17,813 | - | - | 8,953 | 1 | 778 | 1,102 | 1,443 | 380 | - | 32,100 |
1989 | 18,319 | - | - | 10,897 | - | 564 | 354 | 323 | 216 | - | 32,023 |
1990 | 16,562 | - | - | 11,913 | - | 621 | 239 | 92 | 49 | - | 30,802 |
1991 | 15,806 | 434 | - | 11,069 | - | 338 | 231 | 5 | 16 | - | 28,985 |
1992 | 16,541 | 441 | - | 11,616 | - | 176 | 244 | 3 | 20 | - | 30,258 |
1993 | 15,932 | 443 | - | 11,004 | - | 88 | 149 | - | - | - | 28,881 |
1994 | 14,318 | 458 | - | 12,121 | - | 25 | - | - | - | - | 28,489 |
1995 | 13,992 | 443 | - | 11,961 | - | 1 | - | - | - | - | 28,313 |
1996 | 13,019 | 441 | - | 12,820 | - | 1 | - | - | - | - | 29,614 |
品種名
年次
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女蜂 | アイベリー | とちおとめ | とよのか | はるよい | 盛岡16号 | 麗江 | あまおう | 宝交早生 | はるのか |
イチゴ年間 総入荷量 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1997 | 10,658 | 364 | - | 11,254 | - | - | - | - | - | - | 27,660 |
1998 | 8,040 | 317 | 3,934 | 11,065 | 1,289 | - | - | - | - | - | 26,049 |
1999 | 7,181 | 369 | 6,128 | 11,015 | 1,465 | - | - | - | - | - | 28,032 |
2000 | 5,340 | 362 | 8,696 | 11,440 | 1,785 | - | - | - | - | - | 30,693 |
2001 | 1,730 | 292 | 11,741 | 9,871 | 1,767 | - | - | - | - | - | 30,551 |
2002 | 1,108 | - | 13,182 | 8,098 | 1,725 | - | - | - | - | - | 30,232 |
2003 | 522 | - | 13,625 | 6,060 | 1,655 | - | - | - | - | - | 29,138 |
2004 | 234 | - | 14,110 | 2,349 | 991 | - | - | - | - | - | 28,112 |
2005 | 115 | - | 15,589 | 1,053 | 1,050 | - | - | 4,097 | - | - | 28,877 |
休眠の深さや必要度は育種により克服し、休眠打破や花芽分化の促進法も進歩しました。これらにより促成栽培技術は著しく発展しました。また、抑制栽培も株の冷蔵などで著しく進歩しました。夏栽培は今のところ輸入品の天下です。5、6月の高温期の普通栽培は、残念ながら梅雨や気温の関係で産地が壊滅しました。収穫期のビニールトンネルで病害・腐敗は免れます。トンネルだけでも栽培環境は大違いとなります。幅をきかす促成産地は、東の栃木、西の福岡、佐賀、長崎。あと静岡・愛知・茨城、寒地では岩手が頑張っています。
品種によって休眠覚醒に要する低温要求度は全く異なります。5℃以下の積算温度が休眠要求度の指標になります。寒地型の品種は低温要求度が大きいです。例えば「北の輝」は1000~1250時間で、「宝交早生」では600時間程度です。「女峰」はほとんど休眠がありませんし「とよのか」も休眠は短いです。「宝交早生」の促成では、休眠突入防止のため14時間日長のため電照栽培を行います。
従来の花芽分化促進は低温処理、山上げ、遮光、暗黒環境入り等で行われていたが、ポット育苗の発展により促成栽培に大きな革命が起こりました。窒素中断で花芽を促進する方法です。また、採苗法の進歩とポットによる隔離で萎黄病、炭そ病の発生防止に大きく貢献しました。ポット育苗の床土は肥料持ちの悪い荒砂と薫炭の混合が良いといわれてきましたが、現在は特に肥沃の土でなければ何でも良いという意見が強くあります。元肥はIBの大粒化成を1株あたり3粒程度が多いですが、住友化学のEXスミカエース14も適しています。追肥は千葉農試の成績では「住友液肥2号」が最も良い結果です。8月10日頃から窒素を中断しますが、窒素中断用液肥として住友化学の「PK液肥120」が最適です。
全量元肥栽培には二つの方式があります(府県の規定では特別栽培にもなる)。
肥料名 | 総量 | 元肥 | 追肥 | 三要素成分量 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
第1回 | 第2回 | 第3回 | 第4回 | N | P2O5 | K2O | ||||
EXスミカエース14(7袋) (1例)福岡園芸有機 |
105 | 105 | 全量元肥 | 14.7 | 14.7 | 14.7 | ||||
200 | 200 | 14.0 | 16.0 | - | ||||||
施肥期 |
耕起時全園 全層施肥 |
計 | ||||||||
28.7 | 30.7 | 14.7 |
(*単位:Kg/10a)
注:
(1)上記のほか完熟堆肥適量、石灰資材適量を施す。
(2)花房出蕾の中間に草勢維持のため「スミライム」N成分1~2kg/10aの追肥は有効
(3)土壌分析の結果カリ分過剰畑の例
肥料名 | 総量 | 元肥 | 追肥 | 三要素成分量 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
第1回 | 第2回 | 第3回 | 第4回 | N | P2O5 | K2O | ||||
本ボカシ(4-8-1) スーパースミコート570 |
320 | 320 | 全量元肥 | 12.8 | 25.6 | 3.2 | ||||
100 | 100 | 15.0 | 7.0 | 10.0 | ||||||
施肥期 |
耕起時全園 全層施肥 |
計 | ||||||||
27.8 | 32.6 | 13.2 |
(*単位:Kg/10a)
注:
(1)上記のほか完熟堆肥適量、石灰資材適量を施す。
(2)花房出蕾の中間に草勢維持のため「スミライム」N成分1~2kg/10aの追肥は有効
(3)住化の設計でスーパースミコート570だけの設計があるが、肥沃地はそれで良いが、普通の土壌では初期は肥効不足、この設計は栃木の実例、特別栽培候補。
高設栽培のイチゴ(新潟県新発田市(旧紫雲寺)「越後姫」の栽培
各県で自県の研究での成果による栽培装置があります。住化農業資材では香川県方式の「らくちんシステム」を発売しました。この方式はピートモス+粒状ロックウール入りのピートバックを培地に養液栽培で管理します。その他西日本では、福岡方式(不織布のベット杉皮バークに炭化物を使用。施肥は緩効性の肥料・液肥を使用)や長崎県、熊本県、滋賀県、岡山県、奈良県、新潟県等の方式があります。価格は1446千円から4500千円程度までで、肥料は養液、液肥、緩効性肥料の単独または組み合わせなど各種あります。最近は施設栽培の本流となっています。
障害名 | 症 状 | 原因と対策 |
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乱形果 (鶏冠状果など) |
主に第一花房の第一果に発生しやすい。花芽が形成されるときの株の栄養条件や環境条件により発生した鬼花から発育したヒダのある果実。 | 大苗、老化苗、花芽分化期の断根、肥料濃度障害などにより、生育が停滞した場合に発生が多いとされている。対策としては、適正な肥培による若苗定植、浅植えによる活着の促進、適期定植などである。 |
奇形果 | 不完全果による不結実や果実の奇形 | 花芽発育中の低温、高温、株の栄養などによるものである。株の栄養状態を良くすることと、花粉の形成される時期の極端な低温、高温に注意する。 |
正常果であるが、受精が不完全であるため発生する凹凸果など。 |
受精不良、子房や花粉の損傷、開花期の薬剤散布による受精不良などのほか、株の栄養条件、肥料障害、土壌水分などがあげられている。対策としては、受精不良に対してはミツバチの利用、花粉稔性低下に対して、適正な温度管理(昼25℃~28℃、夜間5~8℃)を行い、極端な低温、高温にならないよう注意する。 農薬散布については、各種農薬とも開花期散布の影響が大きいので、開花中の散布はなるべく避け、耕種的に病気を防ぐ環境をつくることが対策の基本となる。 |
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先白果 先づまり果 |
果実先端部の受精が遅れて、着色期になっても成熟せず、白いまま残るもので、第一果に多い。 | 露地では低温期に果実が発育する収穫初期の果実に多い。寒害を受けないよう温度管理に注意する。また「女蜂」のように本質的に先端着色が遅れる品種もある。 |
葉枯れ (ガク枯れ) (チップバーン) |
葉色が濃くなり葉縁から褐変して枯れ上がる。 新葉(未展開葉)やガクが褐変枯死する。 |
肥料濃度障害であり、対策としては適正施肥や灌水により濃度低下をはかるほか、1回の追肥量が多すぎないよう注意する。 |
先端軟化 | 果実が完全に熟さないうちに果実の先端が軟化発酵する。 | 「女蜂」の促成栽培で発生が見られる。昼の低温及び日照不足が誘因となる。栽植密度を粗くすることと、加温することが効果的である。 |
着色不良 | 果実全体がピンクで、それ以上着色が進まない。 | 「とよのか」でみられる。草勢が強すぎると発生が見られ、特に春の過繁茂が問題になる。 |