本格的な野菜作り

VOL.11
イチゴのすべて

来歴と品種、簡単な栽培法

  1. 栽培の歴史
    1. 原産地と栽培の歴史
    2. わが国への伝来
    3. 過去の日本主要イチゴ品種
    4. 台湾のイチゴ
  2. 品種と栽培
    1. 現在の日本主要イチゴ品種
    2. 上記のほかの新品種
    3. 東京市場におけるイチゴ品種の盛衰
    4. 出荷の旬がすっかり変わったイチゴ
    5. 低温要求度と休眠打破
    6. 促成栽培にポット育苗の導入
    7. 促成栽培の本畑には減化学肥料栽培二つの方法ですばらしい結果
    8. 高設栽培(腰を曲げないで済む高床式ベンチ栽培)
  3. 生育障害(新潟県栽培指針による)

1栽培の歴史

1-1 原産地と栽培の歴史

写真(1)収穫最盛期のイチゴハウス
写真(1)
収穫最盛期のイチゴハウス

ヨーロッパ・北アメリカ東部・南米チリーの野生種が栽培の起源(14世紀)。現在の栽培種はフランスの育成(18世紀)です。その後オランダやイギリスでも栽培種が育成され、アメリカでは17世紀から野生種が馴化栽培され、本格的栽培はヨーロッパ栽培種が導入されてからです。

1-2 わが国への伝来

平安時代から野生種を食用。本格的な栽培種の導入は江戸時代末期からといわれています。明治初期には北海道開拓使や勧農寮が導入するも普及せず。1889(明22)福羽逸人によりフランスから「ゼネラルサンジー」種が導入され、「福羽」種はこの品種から育成されました。最初は天皇家用で、その後の石垣イチゴの元祖となりました。新潟園試育成の「阿賀」は「福羽」を利用し、萩原農場育成の「章姫」も先祖は「福羽」です。

1-3 過去の日本主要イチゴ品種

以前の品種は殆どアメリカからの導入種で西のマーシャル、東のフェアファックスが代表的品種です。近年まで流通したダナーは実が固く輸送が容易でした。夏どりに特異的な加工品種「ワサ」(WASA)は秋田湯沢のことです。栄養繁殖するヘテロのイチゴは依然官庁育種が大部分です。東の「女峰」、西の「とよのか」時代がきました。

1-4 台湾のイチゴ

「とよのか」から育成した「桃園2号」、台湾では北部梨山の麓「太湖県」に大産地があります。日本の施設利用の作型(促成栽培)が露地で可能です。輸入されたら競争にならない?しかし病害が広がり問題となっています。付近にはナシの花接ぎ栽培が行われ、穂木は日本から輸入されています。

今栽培されている品種の主要なもの

写真(2)とちおとめ
写真(2)
とちおとめ
写真(3)章姫
写真(3)
章姫
写真(4)あまおう
写真(4)
あまおう
写真(5)さがほのか
写真(5)
さがほのか
写真(6)さちのか
写真(6)
さちのか
写真(7)あすかルビー
写真(7)
あすかルビー
写真(8)とよのか
写真(8)
とよのか
写真(9)紅ほっぺ
写真(9)
紅ほっぺ
写真(10)越後姫
写真(10)
越後姫

2品種と栽培

2-1 現在の日本主要イチゴ品種

栃木に「とちおとめ」が急速に普及して「女峰」に代わっています。「女峰」は影をひそめました。九州の「とよのか」に代わる品種として「さちのか」や「さがほのか」が台頭。福岡の「あまおう」も大人気です。しかし産地で品質に大きな差があります。民間育種品種としてアイベリーが気を吐いており、この品種の育成過程で見いだされた大果性を利用しています。「あきひめ(章姫)」は民間育種のチャンピオンでたしかに甘い。適品種が無かった東北・北陸で「宝交早生」「盛岡16号」の半促成用途に栽培されています。新潟では地産地消の典型の「越後姫」があります。輸送性はやや低いですが「越後姫」の味は甘酸適和で実にうまい。いまや地産地消の時代。新潟に来なければ食べられないでも良いではないかとの意見もあります。

2-2 上記のほかの新品種

きみのひとみ 北海道 夏秋用
尾瀬はるか 群馬農試 半促成用
ふくはる香 福島農試 促成用
ふくあや香 福島農試 半促成用
めぐみ 徳島農試 促成用
メイヒャン 韓国輸山試 促成用
盛岡31号 野菜試盛岡 夏秋用
栃木18号 栃木農試 冷涼地向
あかねっこ 愛知県
アスカウェイブ 奈良農試 促成用
アスカルビー 奈良農試 促成用
濃姫 岐阜農試 促成用
F1エラン(種子繁殖) オランダ 四季成り
紅ほっぺ 静岡農試 促成用
北の輝き 野菜試盛岡 寒地露地
とねほっぺ 群馬農試 促成
さがほのか 佐賀農試 促成
おとめ心 山形県 低温カット栽培

過去の有名品種と露地用品種

写真(11)幸玉 玉利幸次郎育成。甘いので「砂糖イチゴ」とも呼ばれた。
写真(11)
幸玉
玉利幸次郎育成。
甘いので「砂糖イチゴ」とも
呼ばれた。
写真(12)麗紅 千葉県農業試験場育成 もと千葉県の主要品種。
写真(12)
麗紅
千葉県農業試験場育成
もと千葉県の主要品種。
写真(13)宝交早生 兵庫農試宝塚分場 藤本治夫育成 現在でも露地や寒地早熟栽培では主要品種。
写真(13)
宝交早生
兵庫農試宝塚分場
藤本治夫育成
現在でも露地や寒地早熟栽培では
主要品種。
写真(14)女峰 栃木県農業試験場育成 「とちおとめ」育成前は栃木県の代表品種 がくのほうの着色が遅れるので、先端軟化果が出易い。
写真(14)
女峰
栃木県農業試験場育成
「とちおとめ」育成前は栃木県の代表品種
がくのほうの着色が遅れるので、
先端軟化果が出易い。
写真(15)露地栽培のトンネル掛け せめて収穫期だけでもこのようなトンネルで病害予防に大きな効果。
写真(15)
露地栽培のトンネル掛け
せめて収穫期だけでもこのようなトンネルで
病害予防に大きな効果。

2-3 東京市場におけるイチゴ品種の盛衰

品種名
年次
女蜂 アイベリー とちおとめ とよのか はるよい 盛岡16号 麗江 ダナー 宝交早生 はるのか イチゴ年間
総入荷量
1981 3,436 10,147 6,667 4,329 26,102
1982 4,432 8,306 6,369 5,554 26,783
1983 1,073 5,243 6,516 5,140 3,752 24,512
1984 726 7,496 5,892 5,665 3,385 27,726
1985 851 6,706 5,173 4,446 1,014 26,213
1986 5,763 6,246 375 1,030 5,022 4,309 3,821 216 29,785
1987 13,314 8,082 63 660 2,381 2,785 869 2 30,192
1988 17,813 8,953 1 778 1,102 1,443 380 32,100
1989 18,319 10,897 564 354 323 216 32,023
1990 16,562 11,913 621 239 92 49 30,802
1991 15,806 434 11,069 338 231 5 16 28,985
1992 16,541 441 11,616 176 244 3 20 30,258
1993 15,932 443 11,004 88 149 28,881
1994 14,318 458 12,121 25 28,489
1995 13,992 443 11,961 1 28,313
1996 13,019 441 12,820 1 29,614
品種名
年次
女蜂 アイベリー とちおとめ とよのか はるよい 盛岡16号 麗江 あまおう 宝交早生 はるのか イチゴ年間
総入荷量
1997 10,658 364 11,254 27,660
1998 8,040 317 3,934 11,065 1,289 26,049
1999 7,181 369 6,128 11,015 1,465 28,032
2000 5,340 362 8,696 11,440 1,785 30,693
2001 1,730 292 11,741 9,871 1,767 30,551
2002 1,108 13,182 8,098 1,725 30,232
2003 522 13,625 6,060 1,655 29,138
2004 234 14,110 2,349 991 28,112
2005 115 15,589 1,053 1,050 4,097 28,877

2-4 出荷の旬がすっかり変わったイチゴ

休眠の深さや必要度は育種により克服し、休眠打破や花芽分化の促進法も進歩しました。これらにより促成栽培技術は著しく発展しました。また、抑制栽培も株の冷蔵などで著しく進歩しました。夏栽培は今のところ輸入品の天下です。5、6月の高温期の普通栽培は、残念ながら梅雨や気温の関係で産地が壊滅しました。収穫期のビニールトンネルで病害・腐敗は免れます。トンネルだけでも栽培環境は大違いとなります。幅をきかす促成産地は、東の栃木、西の福岡、佐賀、長崎。あと静岡・愛知・茨城、寒地では岩手が頑張っています。

2-5 低温要求度と休眠打破

品種によって休眠覚醒に要する低温要求度は全く異なります。5℃以下の積算温度が休眠要求度の指標になります。寒地型の品種は低温要求度が大きいです。例えば「北の輝」は1000~1250時間で、「宝交早生」では600時間程度です。「女峰」はほとんど休眠がありませんし「とよのか」も休眠は短いです。「宝交早生」の促成では、休眠突入防止のため14時間日長のため電照栽培を行います。

2-6 促成栽培にポット育苗の導入

従来の花芽分化促進は低温処理、山上げ、遮光、暗黒環境入り等で行われていたが、ポット育苗の発展により促成栽培に大きな革命が起こりました。窒素中断で花芽を促進する方法です。また、採苗法の進歩とポットによる隔離で萎黄病、炭そ病の発生防止に大きく貢献しました。ポット育苗の床土は肥料持ちの悪い荒砂と薫炭の混合が良いといわれてきましたが、現在は特に肥沃の土でなければ何でも良いという意見が強くあります。元肥はIBの大粒化成を1株あたり3粒程度が多いですが、住友化学のEXスミカエース14も適しています。追肥は千葉農試の成績では「住友液肥2号」が最も良い結果です。8月10日頃から窒素を中断しますが、窒素中断用液肥として住友化学の「PK液肥120」が最適です。

2-7 促成栽培の本畑には減化学肥料栽培二つの方法ですばらしい結果

全量元肥栽培には二つの方式があります(府県の規定では特別栽培にもなる)。

(1) 「EXスミカエース14」+「完全有機配合」(N成分=50:50)
この「完全有機配合」は100%有機で生有機で良いです。有機によるガス害は「EXスミカエース14」中のDCSが防ぎます。また「EXスミカエース14」中の硝酸態窒素が初期の肥効を発揮しますが、生有機は初期に発酵で若干の窒素飢餓を起こし、これが第2花房の花芽の分化を促進し、第1と第2が連続着蕾となります(長崎県島原市で確認)。また、佐賀県で有機のガス害を恐れて有機施用後1ヵ月後に定植していたイチゴ畑に、施用後5日での定植へ改善させています。
〔施肥例1〕「EXスミカエース14」+「100%有機」の例 
肥料名 総量 元肥 追肥 三要素成分量
第1回 第2回 第3回 第4回 N P2O5 K2O
EXスミカエース14(7袋)
(1例)福岡園芸有機
105 105 全量元肥 14.7 14.7 14.7
200 200 14.0 16.0
施肥期   耕起時全園
全層施肥
       
28.7 30.7 14.7

(*単位:Kg/10a)

注:
(1)上記のほか完熟堆肥適量、石灰資材適量を施す。
(2)花房出蕾の中間に草勢維持のため「スミライム」N成分1~2kg/10aの追肥は有効
(3)土壌分析の結果カリ分過剰畑の例

(2) 「ボカシ」と「スーパースミコート570」の併用(N成分=略50:50)
栃木県の上三川で自家製造の発酵ボカシと「スーパースミコート570」の組み合わせで施肥改善に成功しました。「スーパースミコート570」だけでは初期肥効が弱いようです。
〔施肥例2〕本ボカシ+「スーパースミコート570」の例(カリ過剰の黒ボク土壌)
肥料名 総量 元肥 追肥 三要素成分量
第1回 第2回 第3回 第4回 N P2O5 K2O
本ボカシ(4-8-1)
スーパースミコート570
320 320 全量元肥 12.8 25.6 3.2
100 100 15.0 7.0 10.0
施肥期   耕起時全園
全層施肥
       
27.8 32.6 13.2

(*単位:Kg/10a)

注:
(1)上記のほか完熟堆肥適量、石灰資材適量を施す。
(2)花房出蕾の中間に草勢維持のため「スミライム」N成分1~2kg/10aの追肥は有効
(3)住化の設計でスーパースミコート570だけの設計があるが、肥沃地はそれで良いが、普通の土壌では初期は肥効不足、この設計は栃木の実例、特別栽培候補。

高設栽培のイチゴ(新潟県新発田市(旧紫雲寺)「越後姫」の栽培

写真(16)半促成栽培なので草勢はかなり旺盛
写真(16)
半促成栽培なので草勢はかなり旺盛
写真(17)第2段花房はそろそろ終わり第3段開花中
写真(17)
第2段花房はそろそろ終わり第3段開花中

2-8 高設栽培(腰を曲げないで済む高床式ベンチ栽培)

各県で自県の研究での成果による栽培装置があります。住化農業資材では香川県方式の「らくちんシステム」を発売しました。この方式はピートモス+粒状ロックウール入りのピートバックを培地に養液栽培で管理します。その他西日本では、福岡方式(不織布のベット杉皮バークに炭化物を使用。施肥は緩効性の肥料・液肥を使用)や長崎県、熊本県、滋賀県、岡山県、奈良県、新潟県等の方式があります。価格は1446千円から4500千円程度までで、肥料は養液、液肥、緩効性肥料の単独または組み合わせなど各種あります。最近は施設栽培の本流となっています。

3生育障害(新潟県栽培指針による)

障害名 症   状 原因と対策
乱形果
(鶏冠状果など)
主に第一花房の第一果に発生しやすい。花芽が形成されるときの株の栄養条件や環境条件により発生した鬼花から発育したヒダのある果実。 大苗、老化苗、花芽分化期の断根、肥料濃度障害などにより、生育が停滞した場合に発生が多いとされている。対策としては、適正な肥培による若苗定植、浅植えによる活着の促進、適期定植などである。
奇形果 不完全果による不結実や果実の奇形 花芽発育中の低温、高温、株の栄養などによるものである。株の栄養状態を良くすることと、花粉の形成される時期の極端な低温、高温に注意する。
正常果であるが、受精が不完全であるため発生する凹凸果など。 受精不良、子房や花粉の損傷、開花期の薬剤散布による受精不良などのほか、株の栄養条件、肥料障害、土壌水分などがあげられている。対策としては、受精不良に対してはミツバチの利用、花粉稔性低下に対して、適正な温度管理(昼25℃~28℃、夜間5~8℃)を行い、極端な低温、高温にならないよう注意する。
農薬散布については、各種農薬とも開花期散布の影響が大きいので、開花中の散布はなるべく避け、耕種的に病気を防ぐ環境をつくることが対策の基本となる。
先白果
先づまり果
果実先端部の受精が遅れて、着色期になっても成熟せず、白いまま残るもので、第一果に多い。 露地では低温期に果実が発育する収穫初期の果実に多い。寒害を受けないよう温度管理に注意する。また「女蜂」のように本質的に先端着色が遅れる品種もある。
葉枯れ
(ガク枯れ)
(チップバーン)
葉色が濃くなり葉縁から褐変して枯れ上がる。
新葉(未展開葉)やガクが褐変枯死する。
肥料濃度障害であり、対策としては適正施肥や灌水により濃度低下をはかるほか、1回の追肥量が多すぎないよう注意する。
先端軟化 果実が完全に熟さないうちに果実の先端が軟化発酵する。 「女蜂」の促成栽培で発生が見られる。昼の低温及び日照不足が誘因となる。栽植密度を粗くすることと、加温することが効果的である。
着色不良 果実全体がピンクで、それ以上着色が進まない。 「とよのか」でみられる。草勢が強すぎると発生が見られ、特に春の過繁茂が問題になる。
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