VOL.9
トマトあれこれ
来歴と品種の発達、簡単な栽培法
-
原産は南米の高原、エクアドルやペルー
- 南米から北米へ、続いてヨーロッパへ
- ヨーロッパに伝来、日本には戦国時代の南蛮船で
- わが国では昭和に入ってから急に栽培が伸びる
-
品種あれこれ
- お年寄りのトマト
- 生食用で天下を取った「桃太郎」
- ミニトマトは戦後の産物
- 最近増加してきた中玉トマト
- 加工用トマトは固く橙赤色の外皮の品種で
- 料理用トマトは本場イタリーの品種を応用
-
栽培のスタイル
- 大型施設の栽培
- ロックウール栽培
- 加工トマトの地這い栽培
- 家庭菜園的栽培以外生食用としては激減した露地栽培
- 高糖度追求への栽培法
-
栽培の方法
- 育苗と苗購入
- 定植と整枝
- 着果
- 施肥
-
生育障害
- 生育障害
- 主な病害
- 主な虫害
1原産は南米の高原、エクアドルやペルー
1-1 南米から北米へ、続いてヨーロッパへ
写真(1)
着果の位置までつる下げしたトマト
トマトの原産地は南米のペルーやエクアドルの高原地帯です。それが先住民族インディオの移動でメキシコや中米地域へ伝播しました。今でもこの地帯の野生種から耐病性品種や高糖度品種の素材が求められています。
福井県で育成された高糖度トマト「越のルビー」「華クィーン」などの親は、ペルーの野生種を利用したものともいわれています。
1-2 ヨーロッパに伝来、日本には戦国時代の南蛮船で
まずコロンブスの一行がヨーロッパへ1498年に持ち込みました。大陸からの本格的導入は、イタリアへ16世紀に(1500年代)伝来しました。
わが国には戦国時代に南蛮船で渡来しましたが、どうも日本人の口には合わなかったようで、江戸時代には本草書(当時の植物百科事典)に記載の程度で、食用にはされませんでした。
1-3 わが国では昭和に入ってから急に栽培が伸びる
本格的栽培は昭和に入ってから漸く盛んになりました。日本人にはなかなか酸味の強いトマトは馴染めなかったようです。トマトは酸味と独特の香りで敬遠されたようです。
戦前日本ではアメリカ系の品種、桃色系の大果種「ポンテローザ」などが全盛の品種でした。昭和に入ってからは、民間で日本名の入った地方品種の育成もあり、この「ポンテローザ」を利用して東京では「世界一」、千葉県では「栗原」が育成され、新潟県では「三仏生(さんぶしょう)」トマトがその例です。何れも大果の品種でした。また一代交配種の育成も種苗会社で行われ、「福寿2号」の交配は昭和10年代初期に早くも行われました。戦後の流通品種はほとんど一代交配種です。
写真(2)選果中の「桃太郎」
完熟に近い状態で収穫できるのは
「桃太郎」の大きな特徴
写真(3)ファースト系の品種は
食味が良いことから広がった。
果実先端がとがる。
写真(4)ミニトマトは戦後の誕生
今江はトマトの主力商品にまで
販売を伸ばす。
2品種あれこれ
2-1 お年寄りのトマト
今のトマトは甘いばかりでおいしくないというお年寄りがいます。しかし昔のトマト「ポンテローザ」などと違い、酸味と独特のトマト臭も抜けて大変甘いものになりました。特にフルーツトマトといわれる糖度8~10以上の味は、昔では味わえなかった味です。いくら日本人が甘いものが好きになったとはいえ、今のトマトの味に軍配を挙げる人のほうが多いでしょう。
2-2 生食用で天下を取った「桃太郎」
戦後は次第に一代交配種が増加、また耐病性の品種も育成され、現在までに多数の品種が育成されました。昭和30年代の終わり頃から、日本人のウマイモノ指向もだんだん激しくなってきました。丁度「プリンス」メロン誕生の頃です。メロンやキュウリでは味の良いものが次々生まれてきましたが、トマトは大分遅れてしまいました。耐病性の品種は次々生まれましたが、食味というと却って耐病性の品種においしくないものが多いくらいでした。
トマトのおいしい品種の誕生は昭和50年代の終わり頃からです。「桃太郎」の誕生は昭和58年、元肥を入れすぎると色々な障害を起こすという、栽培の難しい品種でしたが市場の大歓迎を受け、たちまち栽培面積は大増加しました。
今まで産地では日持ちの関係で、少々赤みを帯びた程度で収穫しなければならず、赤くなりすぎた玉は、谷底に捨てていたような状態でした。十分赤くなってから収穫できるので消費者もおいしいトマトが食べられると大歓迎でした。メーカー(タキイ)では完熟ならざる「甘熟」トマトと称していました。その後タキイでは「○○桃太郎」とか「桃太郎○○」を続々育種継続中です。他メーカーもこれに追従して「甘熟タイプに非らざればトマトに非らず」という時代を作りあげました。
生食用の大型のものでは、「ゴールデンジュビリー」という黄色品種もありますが、あまりいろいろな品種はできていません。また日本では加工用トマトに多いのですが、外皮が橙赤色の品種があります。しかし生食用としては余り発展しませんでした。
2-3 ミニトマトは戦後の産物
戦前の商品にミニトマトはありませんでした。「リコパーシコンピピヒネリホリウム」という学名から「ピンピネトマト」などと一部にいわれていましたが、とても商品になるようなものはありませんでした。それが現在この盛況です。一昨年韓国からのミニトマトの輸入が激増して問題になりましたが、どうしてどうして国内産地は頑張っています。「ミニキャロル」「サンチェリー」「キャロルセブン」等の品種が流通しています。
2-4 最近増加してきた中玉トマト
「レッドオーレ」「鈴姫」のように種子で繁殖する中玉トマトが普通ですが、福井農試の先程述べたペルーの野生種を利用した大変糖度の高い「越のルビー」、同じ福井県の民間育成種「華クィーン」の両品種は交配後の雑種第3代程度でその後の固定化を止めたもので、栄養繁殖で苗を分譲しています。
2-5 加工用トマトは固く橙赤色の外皮の品種で
日本ではトマトジュース用がかなり栽培されています。全部といってよいくらい先程の外皮が橙赤色の品種が利用されています。
6料理用トマトは本場イタリーの品種を応用
ヨーロッパで真っ先にトマトが伝来したイタリアではトマトはいろいろな面で利用されていますが、特に料理には専用のトマトが大量に使用されています。最近日本でもこの料理用トマトが市場に姿を見せるようになりました。多くはイタリー種の改良です。
3栽培のスタイル
3-1 大型施設の栽培
写真(5)
最も普通の大型施設の栽培。
この作型は暖地の加温越冬栽培や
無加温春まきである。
現在のトマト栽培では、この栽培法が普通です。暖地では加温越冬栽培が多いのですが、寒地では加温は少なく1月以降の播種による無加温栽培が普通です。
3-2 ロックウール栽培
写真(6)
ロックウール栽培は一時代流行。
現在はやや減少。
トマトはこの栽培に適している。
最近は廃ロックウールの処分が大変なことから、この栽培は減少しています。しかしトマトはキュウリなどに比べロックウール栽培にはかなり適しています。トマトの養液栽培では万国博の時、水耕液+酸素供給でトマトの大木が陳列され、果実の房成りで有名になりました。
3-3 加工トマトの地這い栽培
加工トマトは取引価格が安いので、生産費を切り詰めないと採算が取れません。そこで無支柱地這いということになるのですが、使用品種は赤色系で裂果に強いものが使用されます。通常6~8t/10a程度の収量を挙げることができます。
3-4 家庭菜園的栽培以外生食用としては激減した露地栽培
トマトの共通特性として、特に夏秋期に直接果実が雨に当たると、裂果しやすいです。そこで以前露地栽培で大面積で存在した夏秋トマトは、現在では全てといってよいほど雨除栽培になっています。以前は簡単な屋根付きの装置が多かったのですが、現在では両端の通風を良くしたパイプハウスになっています。
写真(7)
加工トマトの地這い栽培。
東京周辺では、栃木県、長野県、
新潟県等で栽培が見られる。
写真(8)
山間地の抑制雨除栽培。
以前は簡易な雨除が多かったが、
風害を考えてパイプハウス化。
4高糖度追求への栽培法
温室メロンのような隔離床栽培をすれば、水分の調節が可能になり甘いトマトを栽培しやすくなります。普通栽培でも甘いトマトを収穫するには、使用する品種は甘味の出やすいものとして、水分ストレスを起こさせれば甘味の増大には大いに役に立ちます。極端な場合、食塩を施肥することがあります。溶液栽培は比較的糖分のコントロールが可能です。年配の人がいくら力説しても、今の世代は甘いものを好むようです。糖度8度以上のトマトはフルーツトマトと呼ばれ、果物屋さんでも販売されています。
5栽培の方法
5-1 育苗と苗購入
写真(9)
よく出来て揃ったトマト苗
- (1) 育苗の方法
-
トマトはもともと野生種の血が強いためか根は大変丈夫で、挿し木をしても簡単に発根します。しかし根部を冒す病害は非常に多く、接ぎ木をしないと根部が病害にやられることが多いのです。台木は穂木の品種と相性の良い、メーカーの指定する品種を使用するほうが安全です。播種は播種床専用の床土に種まきをします。その床土を水稲の育苗箱に入れ、5cm間隔にまき溝をつけ1.5cm間隔に横ならびに種を置きます。同じ土で軽く覆土をして上から手のひらで十分鎮圧をします。それから箱全体を新聞紙で覆い、その上から如露(ジョウロ)で灌水をします。床温は発芽直前まで30℃、発芽の兆候が見えたら直ちに温度を5℃程度は下げていくようにします。これらは低温期にはサーモスタットを上手に使用すると温度管理は楽になります。
台木は穂木より5~7日程度は早く蒔いておき、接ぎ木の方法は挿し接ぎとします。あまり湿気を与えた環境にすると、穂木から発芽してしまうので注意が必要です。接ぎ木と同時に鉢上げをします。鉢上げ後の育苗日数は高温期で45日くらい、低温期で60日くらいが適当です。第1花房の1番花が開花始めの頃が定植適期です。トマトはあまり若苗で定植すると株の元気がよすぎて、初期の着果が困難になります。
- (2) 購入苗の選び方
-
家庭菜園などで苗を購入する場合の注意点をお話しておきましょう。まず一番ダメな苗は、ヒョロヒョロと徒長している苗です。葉数も少なく節間が伸びているのは、高温環境下で短期間に育苗し、能率だけをあげようとした苗作りです。
もっとも望ましい苗は、第1花房節位以下の葉数が比較的少なく、がっちりした感じで、しかも第1花房の1番花が開花しているくらいの苗齢が、定植してからの生育が最も安定します。若苗では定植してから元気がよすぎて感心しません。また毎年青枯病などで枯れてしまうような畑に植える苗は、必ず抵抗性を確かめて、接ぎ木苗を購入します。「品種は」と尋ねて、返事ができないような店からは買わない方が安心です。
5-2 定植と整枝
定植は晴天無風の夕方がもっとも適しているのは、他の果菜類と変わりはありません。トマトはあまり神経を使わなくても容易に活着する作物です。抑制栽培で夏期乾燥しやすいときは、植穴は株間を35~50cmとし予め水を十分入れておきます。苗は予めドボンと水に浸しておき、苗と植え穴に十分水を入れておけば、定植してからよほどお天気が続かない限り、水をやる必要はありません。十分水を施さないで定植してあとから強く灌水すると、株もとの土を締め過ぎてしまい、その後の発根が悪くなり初期の生育が大変悪くなります。
整枝は普通トマトもミニトマトも、主幹の一本仕立てが普通です。営利栽培ではつる下げをして10段以上も収穫しますが、家庭菜園では4~6段程度で摘芯をしてしまうのが普通です。ミニトマトはかなり高段まで収穫しないと収量があがりません。従って家庭菜園のミニトマトはつる下げをしにくいので、親つる2本整枝にしたりします。加工トマトのように地這い栽培が普通の品種では、主枝が芯どまりを起こすのが普通なので、定植してから全く放任栽培(無整枝)が普通です。
5-3 着果
トマトの着果安定のためには、「トマトトーン」などのホルモン剤を使用するのが一般的です。低温期には80倍程度、高温期には100~120倍程度の薄いものを使用します。高温期に濃い濃度のものを使用すると、写真(11)のような空洞果になりやすくなります。普通栽培のトマトで、一花房の着果個数は4果程度に摘果して形の良いものを残すのが普通ですが、揃いが良く6果程度も着果すると、次の花房の着果個数はどうしても減少して2~3果程度になってしまいます。4段まで沢山着果させると、5段の花は力が弱くなり、いくらホルモン剤を散布しても果実が止まらないことになります(写真(10))。
全量元肥栽培でもこのような場合、「スミライム」(硝酸カルシウム液肥)を10aあたり1~2カートン(N=1.05~2.10)の割合で追肥をすると株の元気が出ます。実際には7段摘心の5段以降にこの障害が出ますから、4段花房の果実の肥大期の施用が有効です。
写真(10)
力のない貧弱な花はホルモン剤をかけても
止めることができない。
写真(11)
夏期、高濃度のホルモン剤の散布で
このような角張った空洞果ができやすい。
5-4 施肥
写真(12)
桃太郎トマトの茎の「窓明き(メガネ)」
- (1) 施肥の考え方
-
トマトは品種によって吸肥力に大きな差が有り、特に「完熟トマト」と宣伝して大々的に発売した「桃太郎」はもっとも吸肥力が強く、普通の施肥でも濃緑色の葉の屈曲、芯止まり、茎が裂ける窓明き(メガネ)等の現象を起こし、中間花房収量が激減する現象が起こりました。
そこでタキイ種苗では、元肥を窒素成分6~8kg/10a程度とし、第1花房の果実がピンポン玉になった頃から追肥を開始する指導が行われてきました。またタキイ種苗の指導者は緩効性肥料を使用しても窒素分は20kg/10aが限度といっています。
筆者は「EXスミカエース14」を設計してから、7段摘心までの全量元肥用として、10aあたりN=30kgで栽培を可能としましたが、作付け前のECが0.2以上の場合では、若干の障害を起こした事例も見られました。 そこで、「EXスミカエース14」に含まれる2.5%の硝酸態窒素に問題ありと見て、「EXスミカエース14」をN=15kg、「スミカユーキ777(DCS0.15%入り 有機率73%)」をN=15kgとした(何れも10aあたり)同時施用を試みましたが、ECが高すぎない限り安定して使用できました。その後100%有機配合肥料とも併用を行っていますが、有機の品質が良い限り何れも成功しています。
桃太郎も「桃太郎」「ハウス桃太郎」「桃太郎T93」「桃太郎8(エイト)」「桃太郎ヨーク」「ホーム桃太郎」「桃太郎ファイト」と多数発売されていますが、「桃太郎ヨーク」がすぐ茎が細くなりやすく、全量元肥が最も困難と判定しています。他では、未検定の「ホーム桃太郎」と「桃太郎ファイト」を除き、他の桃太郎系は全て「EX+有機」で使用可能です。 また最近初期の肥効を抑制したトマト用SSR「有機果菜812」も発売されていますが、最初からECが高すぎない環境である限り、かなり優れた肥効を示すことが確認されました。
- (2)具体的な施肥設計
- 特に普通「桃太郎」は初期の硝酸系の肥料に極めて敏感なので、施肥前の土壌調査でEC=0.2以下が条件です。
[施肥例 1]「EXスミカエース14」+「スミカユーキ777」7段摘心用
10aあたり
|
![[施肥例 1]「EXスミカエース14」+「スミカユーキ777」7段摘心用10aあたり](/agora/yasai/images/vol9_sehi01.jpg) |
注:(1)「スミカユーキ777は有機率73%だが、DCS=0.15%を含有していますので、従来の試験成績ではほぼ100%有機と同様の効果を示しています。
(2)堆肥や石灰資材は慣行通り施します。
|
(この設計は有機使用率が50%にもなるので減化学肥料栽培として認定されます)
10aあたり
|
![[施肥例 2]「EXスミカエース14」+「100%有機配合664」7段摘心用](/agora/yasai/images/vol9_sehi02.jpg) |
注:(1)有機率100%の信用のある会社製であればほぼ同一の効果を示します。
(2)堆肥や石灰資材は慣行通り施します。
(3)火山灰系の土壌では、燐酸分を加用します。
|
[施肥例 3] 「有機野菜812」(初期抑制)使用の設計 |
![[施肥例 3] 「有機野菜812」(初期抑制)使用の設計](/agora/yasai/images/vol9_sehi03.jpg) |
注:(1)「有機野菜812」は住友化学特にトマト用に設計されたSSR肥料です。有機率は9%で前記の2種類の肥料に比較してかなり低くなります。
(2)堆肥や石灰資材は慣行通り施します。
(3) 火山灰系の土壌では、燐酸分を加用します。また連用でP・Kの補給が必要になるおそれがあり、注意を要します。
|
6生育障害
6-1 生育障害
- (1)尻腐病
- 名前は「病」がついていますが、実は生理障害です。トマトの花落ち部分が真っ黒に変色し内部まで障害が入ります。原因はカルシウム欠乏ですが、カルシウムが土中に存在していても、旱魃が続き、土中に水分が不足すると発生します。水分を抑えるフルーツトマトの栽培でも、この障害は起こりやすくなります。最近は「カルブラス」等葉面から吸収しやすい葉面散布剤も発売されているので利用します。ただし葉面散布の効果は1花房のみですから、晴天が続く時や、フルーツトマトの栽培では各花房の完熟前に1回ずつ散布の必要があります。 またこのカルシウム欠乏はトマトの葉先から枯れこみが入り、桃太郎はこの症状を起こしやすい品種です。
- (2)条腐病(すじくされ病)
- 白すじ(白変症)と黒すじ(褐変症)とがあります。このうち黒すじの原因は日照不足、低温、多肥、過湿、カリ欠、高地下水、土の締まり等が複合して発生すると考えられます。筆者の新潟県園芸試験場勤務時代に、この条腐病に悩まされましたが、地下水位の高い排水の悪い土壌でした。またウィルスが原因であるとの説もあります。(写真(14))。
- (3)マグネシウム欠乏
- 土壌水分を節約してフルーツトマトの栽培を行うと、カルシウム欠乏の他にマグネシウム欠乏を生じることも多いです。マグネシウム欠乏は葉脈は緑色が残りますが、葉脈間は白黄色に退色し枯死に至ります。既に欠乏症状の出た葉は回復しませんが、微量要素剤(例えば「キーゼライト」)の補給で治療することができます(写真(15))。
写真(13)
カルシウム欠乏と考えられる症状。
全ての葉に黄白化が現れる場合は
カリ欠のおそれも
写真(14)
条腐病のうち黒すじ型のトマト。
筆者が園試に転勤直後、被害が多く
驚いて撮影したもの
写真(15)
典型的なマグネシウム欠乏症状のトマトの葉。
節水して高糖度化を目指した栽培でみられた
6-2 主な病害
- (1) 疫病
-
梅雨期など湿気の多い時期に発生します。
通常茎葉が黄褐色~黒色に変色して枯れていきます。
近所にバレイショが栽培されていると、そこから感染しやすくなります。
予防的散布では「ダコニール1000」、「ボルドー(水和剤)」に効果があります。
予防兼治療では「べネセット水和剤」が効果的です。(写真(16))。
- (2) 灰色かび病
-
施設内で比較的低温期に、湿度が高いと発生しやすくなります。
ホルモン剤を使うと果実から取れにくくなった花弁、ヘタ等に発生が多くなります。
「ピクシオDF」、「スミブレンド水和剤」、「スミレックス水和剤」、「ダコニール1000」、「ポリオキシンAL水溶剤「科研」」などが効果的です(写真(17))。
写真(16)
疫病に罹患した葉。葉柄が黒変しているが、
甚だしい時は茎まで黒変する。
写真(17)
灰色かび病の被害果。
花弁から発生した灰色のカビは
既に果実も冒している。
写真(18)
青枯病の被害株。
せっかく1~2段が収穫期に入ったのに
先端まで一度に枯れてしまう。
写真(19)
根腐萎凋病(J3)の根。
株の地際から褐変し根部も
ほとんど褐変している。
- (3)葉かび病
-
20℃~25℃で湿気の多い環境で発病します。
どちらかと言えば露地栽培より、施設園芸に発生が多く見られます。
葉の表面に斑点状に病斑が広がります。
登録農薬は40種以上もありますが、病気が蔓延してからでは、なかなか治療は困難です。
予防は「ボルドー(水和剤)」などの銅剤で可能ですが、治療効果は十分でありません。
「ダコニール1000」、「ポリオキシンAL水溶剤「科研」」、「ベンレート水和剤」等も効果はあります。
- (4) 根腐萎凋病
-
施設園芸の低温時に発生が多く見られます(10~20℃)。
土中の細根や支根が腐敗するのが特徴です。
地際部は導管も含めて褐色に腐敗します。
根本的な治療は土壌消毒[バスアミド(ガスタード)微粒剤]しか方法はありませんが、抵抗性品種の選択や抵抗性の台木利用が有効です(写真(19))。
- (5) 青枯病
-
土壌中に存在する細菌によって伝染します。
高温時に発生が多く、露地栽培ではこれから収穫が多くなり始めるという時期に、ある日突然茎葉がしおれ始め、まもなく枯れてしまいます。
多少の強い弱いはあっても抵抗性の品種はありません。抵抗性の台木はかなりありますので、メーカーの指定する台木の使用が安全です。(写真(18))。
- (6)輪紋病
-
葉に発生が一番多いですが茎や果実にも発生します。
O斑が同心円状になる特徴があります。
比較的高温、やや乾燥の条件下で発病が多くなります。
主要農薬としては「ダコニール1000」などがあります。
6-3 主な虫害
- (1) アブラムシ
-
それ自身の汁液を吸う被害だけでなく、ウィルス(CMV)を伝播する被害もあります。
定植時に「ダントツ粒剤」「スミフェート粒剤」「ベストガード粒剤」の何れかを、植穴に入れておくことで効果があります。
これらの粒剤は、「オンシツコナジラミ」にも登録があります。
- (2) コナジラミ類
-
施設園芸で多発しています。
育苗の苗床から持ち込むことが多いので、苗床での防除も怠りません。
多発の場合はかなり果実を汚しますので注意が必要です。
「ダントツ水溶剤」と「ベストガード水溶剤」は散布薬剤用として「オンシツコナジラミ」に登録があります。
- (3) オオタバコガ
-
防除の困難な害虫の一つです。
幼虫が果実に食い込む時期のタイミングを逃さず防除の必要があります。
登録がある主な住化剤として「ディアナSC」、「プレオフロアブル」、「エスマルクDF」があげられます。