本格的な野菜作り

VOL.5
ホウレンソウ・漬菜・ダイコン等の話題あれこれ

  1. 日本的な野菜のホウレンソウ・漬菜・ダイコン
    1. 原産地とわが国への渡来
    2. 日本における品種の発達
    3. ホウレンソウの功罪
  2. ホウレンソウ・漬菜・ダイコンの栽培
    1. ホウレンソウの栽培
    2. 漬菜の栽培
    3. ダイコンの栽培
  3. ホウレンソウ・漬菜・ダイコンの施肥
    1. ホウレンソウの施肥
    2. 漬菜類の施肥
    3. ダイコンの施肥

1日本的な野菜のホウレンソウ・漬菜・ダイコン

1-1 原産地とわが国への渡来

写真:ホウレンソウの収穫
ホウレンソウの収穫

ホウレンソウはわが国には約350年前に伝来し、日本ホウレンソウという葉の刻みが大きく根元の赤色が濃い独特の系統を発展させました。しかしホウレンソウが栄養豊富ということで人気が出たのは、昭和の初期からで、アメリカのホウレンソウの缶詰会社の宣伝映画に始まった、ポパイ映画に影響されたことは大きいと言われています。

漬菜は昔から漬物好きの日本人の嗜好に合い、全国で多数の品種が存在しています。日本では10世紀以前から存在していたようで、壬生菜・水菜等の京野菜は、そのころの文献に見えています。積雪地帯には雪が消えてから、伸びてくる漬菜の若い苔(とう)を食用にする習慣がありますが、最近は菜花、アスパラ菜など、この習慣が全国的に広がってきました。

ダイコンは日本で国際育種学会が開かれたとき、太くて大きい「桜島大根」や細くて長い「守口大根」を展示したところ、世界中の育種学者がビックリしたとの話を聞きました。たしかに日本のダイコンの品種は大変なバラエティがあり、外国人を驚かせています。日本には「浜大根」等の野生種もあり、中国から伝来したものと考えられるものもあり、いろいろな品種が出来上がったということです。

1-2 日本における品種の発達

<ホウレンソウ>
戦前の日本のホウレンソウは日本種と西洋種に隔然とわかれており、日本種は耐暑性が無いことと、日の長い時期にとう立ちしやすく、春夏栽培は無理ですが、専ら秋冬栽培用で大変味の良いものでした。
西洋種は暑さにもかなり強く日の長い時期でもとう立ちし難く、春夏に栽培しやすいものでしたが、食味はあくが強く日本種より劣りました。戦後品種改良がどんどん進み、味は日本ホウレンソウ、強さやとう立ちの遅さは西洋ホウレンソウというような品種も現れてきて、一年中おいしいホウレンソウを食べられるようになりました。
<漬菜>
漬菜も各地でローカル味たっぷりのものが存在しています。広島県の「広島菜」、大阪府の「大阪しろ菜」、京都府の「壬生菜」「京水菜」、関東の「小松菜」「山東菜」、長野県の「野沢菜」、新潟県の「女池菜」「大崎菜」、福島県の「茎立菜」、山形県の「青菜(せいさい)」、仙台の「芭蕉菜」など全国に多数の品種があります。九州の「高菜(柳川・三池など)」「かつお菜」は「からし菜」の仲間です。
また最近味で注目されているのは、「ブラシカ ナプス」=西洋ナタネの仲間で、種は黒色です。この仲間は「三重菜花」、栃木県の「かき菜」、群馬県の「宮内菜」、新潟県の「川流れ」など、各地に分布しています。とうを食べますが、晩生種がほとんどです。漬物の利用より「お浸し」などの利用の方が多いです。
<ダイコン>
一般の生食用のダイコンは、今から2~30年前に大革命が起き、それからは春から秋冬まで全部といってよいくらい青首のダイコンになってしまいました。昔は春「2年子」「時無し」で始まり、「美濃早生」は夏、秋になると「青首宮重」や「練馬」、冬が近くなると「大蔵」「三浦」「阿波晩生」などと変化があったものです。品質も柔らかく辛味の無いものが選別され、一年中同じような味になってしまいました。
昔、ダイコンを春まきすると味の良い品種はとう立ちの危険があり、「2年子」「時無し」は決して味の良いものではありませんでした。それがメーカーの育種の進歩で、一年中マイルドな味のダイコンが供給されるようになったのですから、消費者にとっては有り難いことかもしれません。しかし長野県では昔の味の復活と、「信州地大根」の辛味の強いものを薬味用として復活しようとしています。今後はどのような方向に進んでいくのでしょうか。

1-3 ホウレンソウの功罪

ホウレンソウが昭和に入ってから急に栽培が伸びたのは、大変栄養価に富んだ葉菜ということがわかり、アメリカを中心に宣伝されたからです。ビタミンA,B1、B2,Cの含量も多く、消化や食味にも優れているといわれてきました。ところが大量に摂取すると、人体に害があるといわれている蓚酸(しゅうさん)が含まれていたり、施肥法に因ってはこれも人体に害作用がある硝酸も含まれ易いことが判りました。
しかし蓚酸については連日大量に摂取しない限り、害作用は問題にならないくらいです。鎌倉のある高僧が3度の食事に毎日食べていて蓚酸中毒になり有名になったことがあります。また硝酸も、とくに硝酸態窒素を多量に施肥しない限り大きな心配はありません。

住友化学設計のホウレンソウの施肥法では、硝酸態窒素の含量を特に増やすことはありません。また蓚酸については同一品種を冬季日射が多い三重県と、日射の少ない福井県での栽培で比較した成績がありますが、雪国の福井県のほうが蓚酸含量が半分以下だったとの成績があります。雪を被るとアクが抜けるといわれていますが、蓚酸もアクの一種なのでしょうか?

2ホウレンソウ・漬菜・ダイコンの栽培

2-1 ホウレンソウの栽培

ホウレンソウの栽培で最も注意しなくてはならないことは、土壌のpHの調整です。酸性土壌では満足なホウレンソウは栽培できません。pHは6.5程度になるように石灰資材で調整してください。また季節によって品種の選択も重要なことです。春まきはとう立ちしないか遅い品種、初夏~夏まきは暑さに強い品種、初秋まきはどのような品種でも栽培できますが、品種の良いものを選びましょう。

写真:平等に生育させるように中央部の播種密度を粗くしてある
平等に生育させるように
中央部の播種密度を粗くしてある
写真:春まきは厚肉・丸葉の西洋種の血の強いものが多い
春まきは厚肉・丸葉の西洋種の
血の強いものが多い
写真:フダンソウ」、以前はホウレンソウの代用にしたが、粗剛で栽培は減っている
「フダンソウ」、以前はホウレンソウの
代用にしたが、粗剛で栽培は減っている
写真:熊本の「タカナ」
熊本の「タカナ」、
九州に多数の系統が栽培されている
写真:栃木県の「かきな
栃木県の「かきな」、食味は抜群である
写真:「野沢菜」長野県の原産
「野沢菜」長野県の原産、
栽培は新潟その他の県にも広がっている

2-2 漬菜の栽培

先にも述べたように漬菜は全国的に郷土品種が多数存在し、大変地方色が豊かになっています。従って栽培法も異なりがありますが、特に大きな違いはありません。

とはいえ、小松菜のように栽培期間の短いものと、高菜のように長いものでは肥培管理も違うことは確かです。

注意しなくてはならないことは間引き菜の利用です。使用できる作物は限定されていますが、「スミフェート粒剤」のように直播の種まき前に畦に混和しておくと初期の虫害を防止して重宝ですが、このような粒剤は成分が菜に浸透しますから、絶対に間引き菜に利用しないようにしてください。

2-3 ダイコンの栽培

秋大根はあまり早まきし過ぎると、シンクイムシの被害を受け易いのですが、最近は防除の進歩で随分早まきできるようになりました。しかし早まきでは軟腐病の発生もあり、良質の品種ほど早まきは困難です。

ダイコンは移植栽培ができないので必ず直播とします。ほう素(ボロン=B)欠乏に弱いので、特に砂地などでは必ずほう素入りの肥料を使用します。ほう素欠乏はダイコンの芯が最初は赤褐色になり、後に黒変して売り物になりません。また萎黄病といってフザリウム菌による葉の黄化、根の維管束の黒変化の障害が連作地で発生しましたが、最近は土壌消毒と抵抗性品種の作付けで切り抜けています。

「青首大根」の栽培で葉欠きといって下葉から欠き取る作業をする人がいますが、病葉、黄化葉でもないかぎり、葉の欠き過ぎは却って生育を落とします。ダイコンは元肥を重点としてのびのびと早く生育させるのが良品を収穫する要訣です。このように栽培すれば「す入り」もでません。

写真:春ダイコンの出荷
春ダイコンの出荷、
青首のダイコンの姿は秋と変わらない
写真:新潟県砂丘での加工ダイコンの収穫
新潟県砂丘での加工ダイコンの収穫。
両端を切断している
写真:「大根菜」
「大根菜」、
若い大根の葉の味は抜群である

3ホウレンソウ・漬菜・ダイコンの施肥

3-1 ホウレンソウの施肥

表1.ホウレンソウのいろいろな施肥法
施肥の方法と
肥料の銘柄
冬の施設栽培に
元肥+追肥
元肥「スミカエース1号」
追肥「スミライム」灌注
春・秋の栽培に
元肥+追肥
元肥「スミカエース2号」
追肥「住友液肥2号」灌注または葉面散布
夏の栽培に
全量元肥
全量元肥「CRスミカエース10」
または「ファームキング」
用途と特長 「スミカエース1号」は硝酸化成抑制材のDCSと冬季作物が吸収しやすい硝酸分を十分含んでいます。「スミライム」は硝酸カルシウムにカリと微量要素を加えたもので、追肥としての効果は大変に高いものです。追肥も早めに切り上げれば硝酸の害はでません。 「スミカエース2号」は硝酸化成抑制材(DCS)を含み、アンモニア栄養も行うホウレンソウには効果的です。DCSはこの効果のほかに、根張りを良くして株がばらけず、また食味も向上させます。特に市場が2連休でも徒長が少ないと評判です。 夏の暑い時期のホウレンソウ栽培はがっちり育ちにくいものです。「CRスミカエース10」や「ファームキング」は「スミカエース2号」よりDCSの含量も多く、温度の高い時期でもガッチリ生育させることが出来ます。
使用法 石灰資材は消石灰で10aあたり150~200kgを施用します。堆肥は良質のものを2t/10a程度施します。
元肥の「スミカエース1号」は、10aあたり5袋(100kg)を圃場全園に全層散布します。
追肥は窒素7%の「スミライム」を15kg入り6カートン使用。NPK成分量=24.3-10.0-16.7
石灰資材は消石灰で10aあたり150~200kgを施用します。堆肥は良質のものを2t/10a程度施します。
元肥の「スミカエース1号」は、10aあたり8袋(1kg)を圃場全園に全層散布します。
追肥は「住友液肥3号」で2カートン(40kg)を何回かに分使します。NPK成分量=23.2-24.4-19.2
石灰資材は消石灰で10aあたり150~200kgを施用します。
堆肥は良質のものを2t/10a程度施します。
全量元肥の「CRスミカエース10」や「ファームキング」は10aあたり11袋(220kg)を圃場全園に全層散布します。追肥は不要です。
NPK成分量=22.0-22.0-22.0となり他に微量要素も補給されます。
注意点 石灰の使用量は土壌のpHを測定して6.5になるよう調整してください。
火山灰土壌のような燐酸吸収係数の高いところでは、やや多めに燐酸分を加えます。
元肥の「スミカエース2号」はDCSの含量が少ないが、ガッチリ育てる効果は十分あります。火山灰土壌のような燐酸吸収係数が高いところでは、燐酸分を加えます。 火山灰土壌のような燐酸吸収係数が高いところでは、燐酸分を加えます。

3-2 漬菜類の施肥

ホウレンソウに準じますが、石灰資材はホウレンソウの半分ほどで結構です。

3-3 ダイコンの施肥

表2 ダイコンのいろいろな施肥法
施肥の方法と
肥料の銘柄
春ハウス・トンネル
全量元肥
全量元肥
「CRスミカエース10」
+「スミカエース1号」
夏・秋の栽培に
全量元肥
全量元肥
「CRスミカエース10」
または「ファームキング」
夏栽培に住化のSSR肥料
全量元肥
全量元肥「葉菜根菜072L」
用途と特長 「スミカエース1号」+「CRスミカエース10」との混合で、春ハウスとしてはDCSの割合もちょうどよく、また硝酸態窒素もちょうど良い割合で、施設内の春ダイコン用肥料としては最高です。 「CRスミカエース10」や「ファームキング」は含まれている硝酸化成抑制材(DCS)の力で高温期でも十分全量元肥栽培が可能です。
また硝酸含量は余り高くないのですが、夏・秋季の初期生育には十分な量です。
「葉菜根菜072L」は、ほう素欠乏症状がでやすい地帯のダイコンやハクサイ、スイートコーンの全量元肥栽培用に設計されたスーパースミコート肥料で、各時期に効果を表す被覆尿素が上手に配合されています。
使用法 石灰資材は消石灰で10aあたり100kgを施用します。堆肥は良質のものを2t/10a程度施します。良質のものが無ければ使用しないように。
10aあたり「スミカエース1号」は3袋(60kg)、「CRスミカエース10」は4袋(80kg)を同時に圃場全園に全層散布し、追肥は不要です。
NPK成分量は18.8-14.0-16.4、他に若干の微量要素を含む。
石灰資材は消石灰10aあたり100kgを施用します。堆肥は良質のものを2t/10a程度施します。良質のものが無ければ使用しないように。
全量元肥の「CRスミカエース10」は10aあたり10袋(180kg)を圃場全園に全層散布し追肥は不要です。
NPK成分量は18.0-18.0-18.0、他に若干の微量要素を含む。
まず石灰資材や堆肥を散布し荒起こしをしたあと、「葉菜根菜072L」を10aあたり4袋(80kg)に全園に散布して全層によくすきこみます。追肥は不要です。
NPK成分量は16.0-13.6-9.6、他にほう素分も含んでいます。
燐酸欠乏地帯では過燐酸石灰などで補給してください。
注意点 「スミカエース1号」には、ほう素は含まれておらず「CRスミカエース10」もそう多くほう素は含んでいないので、ほう素欠乏の畑では「ほう砂」等を別途補給してください。 極端なほう素欠乏地帯ではほう砂等で補給してください。また火山灰土壌のような燐酸吸収係数が高いところでは、燐酸分を加えます。これは春ハウス・トンネルでも同様です。 3要素の中では燐酸・カリが少なく特にカリが欠乏しています。今多くの畑がカリ過剰ですが、ダイコンは栽培後期にかなりカリを吸収しますので連作地ではカリ補給を行ってください。
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