原産地は北西インドやタジク、ウズベキスタン、天山などのシルクロード付近といわれていますが、野生種は発見されていません。紀元前数千年から食用にされた形跡があるとのことです。この地方を中心にして各地で栽培が始まりましたが、アメリカでは16世紀から後の栽培と言われています。日本では江戸時代に栽培されていた形跡はありますが、本格的な栽培は明治になってからです。
明治4(1871)年に北海道で栽培に成功していますが、アメリカの中北部で栽培されていたタマネギはほとんど春まき用の品種でした。気象がかなり北海道と似ていたので、スムーズに土着することが出来ました。
ところが大阪府に入ったものは、春まきすれば余り大きな球にならないうちに暑さで茎葉が枯れてしまいました。では秋まきと試験すれば皆とうが立ってしまう。このような試行錯誤の中で、明治17(1887)年頃ようやく栽培に成功、その後アメリカから導入した「イエロー・ダンバース」という品種を馴化(じゅんか)して、有名な「泉州黄」の元となりました。
一方北海道では、これまたアメリカから導入した「イエロー・グローブ・ダンバース」という品種が元で「札幌黄」が誕生しました。ここ10数年前まで原品種のせいで、府県産のタマネギは平型、北海道産のタマネギは丸型と決まっていましたが、現在では全国的に丸型の品種に統一された感があります。
日本のタマネギ産地は北は北海道から南は九州まで全国的に分布しています。北海道では札幌周辺から栽培が始まりましたが、富良野市・岩見沢市・北見市とその周辺の訓子府町・美幌町・端野町・留辺蘂町・上湧別町・斜里町などが産地です。
府県では関東では栃木県・千葉県、中部では静岡県・愛知県が産地です。愛知県は早だしで有名でしたが、最近は佐賀に大きく越されています。近畿では大阪府の南、泉州地方が多かったのですが、最近では都市化で激減、海一つ隔てた淡路島や、隣の香川県、などが大産地になっています。佐賀県の有明海干拓地では栽培が激増、国内では北海道につぐ産地になり、早だしから吊り玉まで広く生産され、各地に出荷されています。
日本でのタマネギは輸入野菜の走りのようなものでしたが、産地がアメリカ・ニュージーランドのような民度の進んだ国のためか、不作の年に手当を多くし、豊作年にはあまり輸入しないという節度も見えてきて、国内産地が悲鳴をあげることは少なくなりました。
しかし東京市場の年平均kgあたり卸単価は、1995年=104円、1996年=84円、1997年=80円、1998年=105円、1999年=81円、2000年=71円と下落傾向にあるのは事実です。輸入の為、昔のように国内が不作で価格が暴騰、「タマネギ御殿が建つ」というようなことはなくなりました。(注:2013年の築地市場卸売単価は年平均で93円です)
一代交配ともいい、メンデルの法則の利用で、同じ種内でも比較的遠縁の品種を交配すると、雑種強勢という現象が現れ、株は丈夫で品質がよく多収、また良く揃うという利点が見られます。戦前はナス、一部のウリ類などで利用されていただけですが、戦後はこの一代交配利用が大躍進、F1の採種困難なセルリー・レタス、地方野菜の菜類、栄養繁殖のイチゴ・イモ等を除き、ほとんどの野菜が一代交配化されました。キュウリ・メロン・トマトなど販売種子はほとんどF1です。
上記の利点のほかに、種子の取り返しを利用者ができないので、毎年種子を購入しなければならず、種苗会社の営業利益にもつながっています。
タマネギ種子の一代交配化は果菜類よりは遅れましたが、最近は激増しています。タマネギ種子の大手販売業者、タキイ・七宝も最近の販売品種はF1種が大部分です。
研究者によればタマネギの一代交配種は、揃いはよいのですが、収量性は特に多くないといわれています。よく揃うので規格品の市場出荷には、何といってもF1が有利なようです。ただ播種期を間違えて早まき大苗にしてしまった場合、不時抽苔も揃って多くなることがあります。昔は5%程度のとう立ちは却って増収といわれたものですが、F1の場合、0%が殆どですが、播種期・育苗に失敗すると激増することがあります。
(以上旧農水省「野菜茶業試験場」発行資料による)
(大産地はほとんど機械化していますが、家庭菜園の方のことも考えて、手作業でもわかる解説にします)
北海道でも佐賀県でも大規模栽培の農家に使用が増えてきました。育苗中後半に固結剤を入れて、苗の床土が崩れないようにして、機械定植を行うのが特長です。タマネギにもネギにも使用できます。
タマネギの品種は以前府県では「泉州中高黄」、北海道では「札幌黄」が標準品種で、栽培も多かったのですが、今やF1(一代交配)の時代で、しかも府県・北海道を通じて丸型の品種が流通するようになりました。
北海道で最も栽培が多い品種はいずれも一代交配種(F1)で、「スーパー北もみじ」(七宝)=極早生、「ウルフ」(タキイ)=中早生、「カムイ」(タキイ)=中生、イヨマンテ(タキイ)=中生、などです。なかでも「スーパー北もみじ」は、かなり大面積で栽培されています。
府県ではやはり一代交配種(F1)が多く「O・P黄」(タキイ)=中生、「アース」(タキイ)=中生、「ターボ」(タキイ)=中生、「アトン」(タキイ)=中生、「ラッキー」(渡辺採種場)=晩生などに人気があります。また赤タマネギには「湘南レッド」(サカタ)、「東京レッド」(武蔵野)などがあります。
写真(4)から(7)までは各地のタマネギの栽植状況です。(5)の北海道の栽培は、よほど排水が悪いところ以外は隙間無くビッチリ植え、防除用のスプレイヤーを牽引するトラクターは、タマネギを踏みつけて走ります。トラクターのわだちは決まった場所を通るので、年中踏まれる気の毒な?タマネギも存在するわけです。またこのような栽植方法では、雨の多い年は場所によっては湿害が発生することもあります。また秋まきではこの方法での栽培は無理なようです。
写真(6)は日本第2の産地である有明海の干拓地、佐賀県白石町及びその周辺の栽培状況です。早だしの場所では白マルチを行い、広巾の畦ですが低湿地のためか全般に高畦栽培を行っています。
写真(7)は淡路島の栽植状況です。淡路島のすべてがこのような無理をした栽植状況ではありませんが、形の悪い水田を十分に利用した転作の栽植状況です。
写真(4)は香川県の栽植状況です。決して低湿地ではないのですが、土壌が粘質のためか、有明海干拓地に負けない高畦で排水が図られています。
写真(5)の北海道を除き、4条抱き畦の高畦が府県のタマネギ栽培の普通の姿です。
府県の標準栽植密度は、4条抱き畦、畦巾120cm、床面90cm、株間12cm、条間20cmで栽植本数は10aあたり、27,700本となります。高畦ではこれより少なくなり平畦では増加しますが、北海道のような畦無しでは10aあたり40,000本くらい植えられるところもあります。
畑の作り方の順序は、3.2)(1)~(4)の播種床の作り方と全く同様でよいのです。肥料は北海道では全園散布、全層混入の一発施肥が普通です。
しかしトラクターとブームスプレイヤーを利用した、葉面散布を兼ねた液肥の追肥は行われています。府県では全量元肥の一発施肥も行われ始めましたが、早春肥大前の1~2回追肥が多いようです。
最近は定植も機械利用が増えてきて、写真で示した「みのる式」も、定植は機械で行われます。手植えの場合の注意点として、穴あきマルチの上から棒状の植え穴を作って植える場合、根の先端がはみでないように注意してください。
また施肥は全園全層は良いのですが、慣行で表面施肥のところもあります。このような所では、たとえ全窒素中10%でも硝酸態窒素の含まれている肥料は、定植直後の大雨などで、根が焼ける害を出すことがありますから、表面施肥を避けるよう注意してください。
定植時期は育苗約50~60日で定植期になります。育苗で育ち過ぎの大苗定植では、品種によってはとう立ちの危険があり、とう立ちしないでも分球して商品価値を落とすことがあります。このような場合は、苗で太り過ぎないうちに定植する必要があります。
また積雪地帯では根雪の40日前までに定植するようにしましょう。遅くなると活着不良で雪下で欠株になることがあります。
全国的に見ると、極寒地または暖地の遅植え作型を除き、10月中旬から11月中旬までに定植するところが多いようです。
施肥の方法と 肥料の銘柄 |
元肥+追肥 元肥「CRスミカエース10」 または「ファームキング」 追肥「CRスミカエース」 または「ファームキング」 |
一発施肥(DCS) 早生タマネギ 全量施肥 「CRスミカエース10または 「ファームキング」 |
一発施肥(DCS+SSR) 中生タマネギ 全量元肥 +「CRスミカエース10」 (または「ファームキング」 +「スミコート570」 |
---|---|---|---|
用途と特長 | いずれの肥料も硝酸化成抑制材(DCS)を含み、アンモニア栄養を行うタマネギにDCSの効果は大きい。DCSはこの効果のほかに、根張りを良くして株がばらけず、また食味も向上させます。 | 夏では肥効期間が50~60日である「CRスミカエース10」や「ファームキング」は、冬季間では肥効は倍以上になります。特に休眠期間の少ない暖地のマルチ栽培で、一挙に収穫に持ち込む極早生~早生種に最適。 | 栽培当初「CRスミカエース10」(またはファームキング」)の肥効で生育し、早春に肥効は「スミコート570」にバトンタッチされます。DCS入り肥料と被覆(コート)肥料の両特長を発揮します。 |
使用法 |
まず石灰資材や堆肥を散布し荒起こしをしたあと、「CRスミカエース10」か「ファームキング」を10aあたり5~6袋(100~120kg)を全園に散布し、全層に良く鋤き込みます。追肥は早春休眠が破れた直後頃に10aあたり6~7袋畦間にバラマキ施用します。 NPK成分量=22.0~26.0-22.0~26.0-22.0~26.0kg |
まず石灰資材や堆肥を散布し荒起こしをしたあと、「CRスミカエース10」か「ファームキング」を10aあたり10~11袋(200~220kg)を全園に散布し、全層に良く鋤き込みます。マルチを張ってあると追肥は困難ですが、この元肥で十分です。 NPK成分量=20.0~22.0-20.0~22.0-20.0~22.0kg |
まず石灰資材や堆肥を散布し荒起こしをしたあと、「CRスミカエース10」か「ファームキング」を10aあたり5~6袋(100~120kg)と「スミコート570」5袋(100kg)を全園に散布し全層によく鋤き込みます。マルチを張ってあると、肥料の流亡が少なく有効です。 NPK成分量=25.0~27.0-17.0~19.0-20.0~22.0 |
注意点 |
海岸砂丘地や、砂土で雨の多い年は、追肥を早めてから2回施用します。 火山灰土壌のような燐酸吸収係数が高いところでは、燐酸分を加えます。 |
海岸砂丘地や、砂土でもしっかりしたマルチが張ってあれば、この全量元肥は可能です。 火山灰土壌のような燐酸吸収係数が高いところでは、燐酸分を加えます。 |
火山灰土壌のような燐酸吸収係数が高いところでは、燐酸分をやや多めに加えます。 |
タマネギは、25℃以上の気温では、生育が抑制傾向になるので、府県での春まきは、一部高冷地以外は無理です。府県で春まきした小球を、秋植えで栽培する「オニオンセット」法もあります。
また収穫期が梅雨期の最中になる所が多く、収穫前の軟腐病・べと病・黒斑病には注意が必要です。また収穫も雨の中や湿度の高いときでは、貯蔵性は大きく低下してしまいます。また収穫前ころに球を太らせるために追肥をする人がいますが、たしかに収量が上がっても、これまた貯蔵性は大きく低下します。
春先乾燥が続くときは、灌水の効果が大きくなります。特に「スミコート570」を使用したときは、雨が降らない場合、特に灌水の効果が大きくなるので必ず実施してください。