「農業TOP EYE」は、経営・農業機械・人材教育・販売などをテーマに、多彩な業界のキーパーソンにインタビューし、農業経営に役立つ情報をお届けするコーナーです。
このコーナーでは、昨年よりAIやICTなど先端技術を活用した「スマート農業」をテーマに、その代表的存在として普及が進む『農業用ドローン』を特集しております。
今回は、ドローンの世界的リーディングカンパニーDJI社の日本法人であるDJI JAPAN株式会社の農業ドローン推進部 マネージャーの岡田善樹氏にお話を伺いました。
DJI JAPAN株式会社
農業ドローン推進部 マネージャー
岡田 善樹 氏
取材日:2021年2月2日
DJIは2006年に、マルチコプターの飛行制御システムを手がけるメーカーとして中国で創業した、全世界での従業員数が1万人を超える企業です。
農業用ドローン事業は中国で2015年からスタートし、日本では2017年より本格的な展開をはじめました。2017年以前は、空撮用ドローンなどのコンシューマー向け製品がメインでしたが、現在は農業用をはじめ、測量、建築などの産業用ドローンの需要も大幅に増えているような状況です。おかげさまで農業用ドローンの分野で、日本国内の大きなシェアを占める位置まで成長することができました。
薬剤散布の作業時間の効率化・労力の軽減を期待して、農業用ドローンを導入されるお客様が多いですね。社内のデータによると、お客様の平均年齢は45歳で比較的若い方が多く、作付規模で言うと10ha以上の大規模のお客様が多いようです。
お客様からは、「新しい技術を積極的に取り入れたい」「夏の暑い盛りに、動噴を背負って田んぼの中に入りたくない」といった声をよく聞くので、導入の背景には『最先端の技術や情報』『省力化』に対する強いニーズがあるように感じます。
弊社のドローン製品には2つの大きな強みがあります。一つは、「高度な飛行制御技術」で、もともとDJIは2006年からシングルローターのヘリコプター制御装置を手がけるなど、飛行制御の技術・ノウハウを蓄積してきました。こうした安定して飛行するための制御技術をベースとして、信頼性の高いドローン製品を展開しています。
もう一つは、「自社での設計・開発、製造」です。ドローン機体の設計・開発はすべて社内で行い、製造も一部分を除いてほぼ自社製造となっています。これにより、例えば部品の不具合が生じた際にもスピーディに対応し、機体のアップグレードに反映するなど、よりフレキシブルな顧客対応が行えます。
日本国内では、主に「AGRAS MG-1シリーズ」「AGRAS T20」という2つの農薬散布ドローンが普及しており、対象作物は水稲がメインです。ドローンを活用することで薬剤散布の効率化、労力の軽減を期待して導入されているお客様が多いですね。
また、センシングドローンについては、「P4 MULTISPECTRAL」という製品になります。この製品は、可視光のブルー、レッド、近赤外線など波長の異なる光に対応する6つのセンサーを内蔵したカメラを搭載し、各波長の反射率により植物の健康状態を判断できるマルチスペクトル画像収集が可能です。撮影により得られた画像データを活用し、作物の生育状況を多様な角度から分析することができます。
「AGRAS MG-1シリーズ」と「AGRAS T20」のどちらも障害物レーダーを標準搭載し、未然に衝突事故などを防止する安全機能や、基本的な散布補助機能・自動航行機能を持っています。
「AGRAS T20」では、新たに「果樹モード」を搭載しました。これは、測量・マッピング用のドローンPhantom 4 RTKで圃場を撮影して生成した3D飛行ルートをもとに、果樹園の傾斜具合・起伏や樹列の状況を識別し、自動航行で散布を実施できる機能です。例えば果樹の樹上で静止した状態で薬剤を散布して、また次の樹上に移動して静止散布するのを繰り返すといった、水稲とは異なる動きの自動航行を可能にしました。
国内のかんきつ産地では、無人航空機での散布登録を取得した農薬散布に、この果樹モードを使用する現場も増えつつあるようです。
農業用ドローン運用の基本は「安心・安全」です。当然のことですが、農業用ドローンには、農薬の散布量などの緻密な制御が求められるのと同時に、散布する圃場周辺の人間はもちろん、電柱や電線といった障害物、隣地圃場の土壌や作物などに配慮した機体の操作が欠かせません。
弊社では、この「安心・安全」をコンセプトとした農業用ドローンの設計・製造、販売・サポートを実施しています。販売・サポートに関しては、全国130ヵ所の代理店(2020年12月時点)を通じて展開。安心して農業用ドローンをご活用いただくために、各代理店では、お客様のライセンス取得を販売条件とする体制を構築し、取得のためのプログラムをご提供しています。また、初回購入時と年1回の定期点検時には、弊社負担で対人対物賠償責任保険を付帯するなど、定期点検・整備等のサポート体制も万全です。
農薬メーカーとは、ドローンを使って農薬を適正に使用するために必要な薬効試験や、その薬剤に合わせたインペラ回転数・シャッター開度等の設定値の確認など、今後も継続して協力していきたいと考えています。
以前、北海道の現地圃場で住友化学の水稲用初・中期一発処理除草剤「メガゼータ400FG」のドローン散布を行いましたが、FG剤は圃場の広範囲に自己拡散することから、同じ面積を散布するのに少量散布で済み、効率の面でもドローンとの相性がいい薬剤だなと実感しました。タンクに薬剤が詰まったりすることもなく、スムーズにドローン散布することができたので、大規模面積の散布には優位な除草剤なのではないでしょうか。
今後も、DJIと農薬メーカーがコラボレーションし、お互いのお客様に対してドローンの安全・適正利用に向けた普及活動を行なっていきたいと考えています。
今後は、AIを活用した果樹園への農薬散布技術や、センシングドローンなどを使って圃場の地力や作物の生育状況を分析し、場所ごとの施肥量を変えていく可変施肥技術などが、ドローン業界で進んでいく可能性があるのではないでしょうか。
弊社の取り組みとしては、先ほどご紹介した「AGRAS T20」の果樹モードなど、野菜や果樹の分野も視野に入れて事業を展開していきます。ただ、圃場条件や作物形状が複雑な場合が多いため、しっかりと散布効果を確認するためにも、農薬メーカーとより緊密に連携して、試験などを重ねていくことが大事ですね。
弊社は農業用ドローンに関して、コンセプトである「安心・安全」に基づき、各代理店と協力して引き続き教育・運用フォロー・整備などのアフターサービスをしっかりとお客様へ提供してまいります。そして、こうした代理店や農薬メーカーといったパートナーの皆さまと協業しながら、ドローンを通じて日本農業に貢献していきたいと考えます。