農業TOP EYE

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「農業TOP EYE」は、経営・農業機械・人材教育・販売などをテーマに、多彩な業界のキーパーソンにインタビューし、農業経営に役立つ情報をお届けするコーナーです。

第5回は、「甲斐路」「ロザリオビアンコ」等のぶどう品種を輩出した、農業生産法人 株式会社植原葡萄研究所の代表取締役 植原 宣紘氏にお話を伺いました。

シャインマスカットの
出現により、
ぶどう育種の
新しい可能性が見いだされた。

農業生産法人 株式会社植原葡萄研究所 代表取締役 植原 宣紘 氏

農業生産法人
株式会社植原葡萄研究所
植原 宣紘

取材日:2018年8月

最初に日本におけるぶどう品種の
変遷について簡単に教えて下さい。

植原代表取締役1000年程前、甲州という品種の種が中国から日本に入り、細々と栽培されていた。それ以外の品種はなかったが、鎖国が解かれると、世界中を視察するようになった。その時様々なぶどうが栽培され、またワインが飲まれているのを目のあたりにし、導入・栽培の経過をたどったが、ヨーロッパの品種は日本の気候にあわず、うまく栽培できなかった。ただ、アメリカ由来の品種だけが病気に強く日本の気候にマッチし、現在のデラウェアに繋がっている。またキャンベルアーリー、ポートランド、ナイアガラも雨に強く、日本の気候に適していた。
わずかに生き残ったヨーロッパ系品種とアメリカ系品種を交配してできたのが巨峰であり、戦後普及した。2000年頃まで巨峰のシェアは高かったが、巨峰を改良したピオーネが台頭し、巨峰の地位を脅かす存在となった。しかしそのピオーネも温暖化や日中と夜間の気温差が少なくなると、色付きが悪くなってしまった。現在人気のシャインマスカットは2008年頃から普及し始めている。

シャインマスカットの人気理由と
ブドウ消費をどう分析されていますか?

植原代表取締役ここ10年、シャインマスカットの人気により、慢性的な苗木不足になっている。種なし・皮まで食べられる・糖度が非常に高いなど、消費者に受け入れやすい要素をもっており、また九州から岩手・青森まで、ほぼ全国で栽培可能であり、露地栽培にも対応できるという栽培者からの立場からも高い普及性をもっている。
従って、消費者・栽培者の両面の立場で受け入れやすい要素をもっており、また皮がある程度固いため長期輸送にも対応できる事も人気の要因と考えている。
昭和末期にはぶどうの栽培面積約3万haあったが、現状では半分の約1万5千haになっている。確かにシャインマスカットは人気だが、それによりぶどう全体の栽培面積が劇的に増えているわけではないのでぶどう消費が拡大したとは考えていない。
今後は生産過剰による「飽き」「値崩れ」の懸念を予想しておかなければならない。そのため、次なる品種の開発が求められる。シャインマスカットをスタンダードと位置づけ、それ以上の付加価値をつけないと、消費者・生産者に受け入れられない。しかしその付加価値が消費者・生産者に受け入れられない場合は、シャインマスカットの人気が継続する可能性がある。

品種開発についてのポリシー・栽培などを
教えてください。

植原代表取締役「育種なくして発展なし」を信念にしている。甲斐路、ロザリオビアンコ、巨峰、ピオーネなどは民が開発し、シャインマスカットは官が開発した。お互い技術力もあり、トレンド・ニーズ等を意識し、切磋琢磨しつづけ発展に繋がれば良い。
日本の気候に耐えうる品種・粒の大きさ・着色・味・生産しやすさ、特に病気の要因となりうる雨・湿気に強い品種を開発する事は重要である。
ジベレリン処理による「種なしぶどう」が生産できることも重要事項の一つで、その可否は死活問題になりうる可能性がある。安定的な効果、誰でも簡単に処理できる事が大事であり、試験場・普及センター等による研究・試験で、適切に指導して頂き、安心してジベレリンが使用できる体制になっている。
これらを兼ね備えているのが、消費者・栽培者の固定概念を覆したシャインマスカットであり、シャインマスカットとの交配を主軸に品種開発を考える事で、更なる苗種育成・普及が期待される。
ヨーロッパでは新しい品種が大きく普及したという事はあまり聞いたことがない。現在もマスカット・オブ・アレキサンドリアが栽培されている。エジプトのアレキサンドリアが原産地であり、栽培が始まったのは2000年以上前の話である。他の主要品種でも何百年も前の話。昔からの品種を作り続けている外国と、昭和から今日まで交配を繰り返し、新しい品種を生み出している日本では状況が異なる。これは気候に由来しており、ヨーロッパ系品種の品質の良さと、アメリカ系品種の栽培のしやすさを交配させ新しい品種を作り出さなければ、雨の多い日本ではぶどう栽培の普及は難しい。

最後に、今後の取り組みやビジョンについて教えてください。

植原代表取締役シャインマスカット出現により、「雨に強い」「ジベレリン処理による種なしが可能」「皮も食べられる」「糖度が高い」「芳香を有する」などの複数の特長を持つぶどうが一つの品種により可能となった。
その特長を最大限生かす品種開発は今までにない新しい特長を有する品種を生み出す可能性を秘めており、また、スピード感をもって品種開発することも可能となる。
「育種なくして発展なし」であり、新しい品種を生み出す喜びは過去も現在も未来も変わらない。今まで培った品種開発のノウハウを駆使するだけでなく、情熱を持ち続け、シャインマスカット以上のものを世に送り出すことにより、さらなるぶどう産業発展に貢献したいと考えている。

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