農業TOP EYE

4

「農業TOP EYE」は、経営・農業機械・人材教育・販売などをテーマに、多彩な業界のキーパーソンにインタビューし、農業経営に役立つ情報をお届けするコーナーです。

第4回は、コンビニエンスストアや炊飯工場向けに業務用米の販売を手がける伊藤忠食糧株式会社の専務取締役 金子統氏にお米のマーケットについてお話を伺いました。

炊飯米の品質管理サポートを強みに、
業務用米の
リーディングカンパニーへ。

伊藤忠食糧株式会社 専務取締役 米穀本部長 金子 統  氏

伊藤忠食糧株式会社
専務取締役 米穀本部長
金子 統

取材日:2018年3月16日

いま、国内の主食用米マーケットは、
どのような変化が
起こっているのでしょうか。

金子専務わが国の主食用米における平成28年から29年にかけての需要量は約750万t あり、そのうち農家の自家消費などを除くと、市場流通量は約600万t になります※1。大まかに言うとその半分が家庭用米、もう半分は業務用米として流通しているのが現状です。
主食用米の需要量は、ここ10年の間、毎年おおむね8万t ずつ減少しています。この年間減少量は、需要量の1%以上に相当しますが、日本の年間人口減少率が約0.2%※ 2なので、その5倍のスピードで減少していることになり、いかに主食用米の減少が深刻かお分かりいただけるのではないでしょうか。しかし、需要が減少している主食用米のほとんどは家庭用米で、業務用米は非常に堅調です。割合から言えば、家庭用米よりも業務用米の比率が高まってきているのが近年のトレンドですが、現在、この業務用米の絶対量が市場に不足している状況が、中食や外食産業での商品値上げの動きを招く一因となっているのはご存知のとおりです。

※ 1 農林水産省「米穀の需給及び価格の安定に関する基本指針」
http://www.maff.go.jp/j/seisan/keikaku/beikoku_sisin/shishin291130/attach/pdf/sisin_291130-1.pdf
※ 2 総務省統計局「人口推計」
http://www.stat.go.jp/data/jinsui/2016np/index.html

そんなお米マーケットに対して、
御社ではどのような事業を
展開していますか。

伊藤忠グループのネットワーク
伊藤忠グループのネットワーク
金子専務弊社では、玄米・精米を産地から調達し、それを精米・炊飯工場、コンビニエンスストアの弁当製造工場、外食チェーンなどに販売する米穀卸売事業を展開しておりますが、仕入れ先・販売先の双方に、商社の強みを生かしたサポートを提供しています。
まず仕入先に対するサポートですが、お米の調達で重要なことは、いかに産地との絆を深め、相互に信頼できる関係になるかです。幸い私どもには、食品の卸、加工、マーケティング、流通といった伊藤忠グループのネットワークを活かしたトータルな提案力があります。それをお米の生産と安定的に結びつける仕組みを創ることが我々の機能だと思っています。また、九州の土壌分析会社と共同で、収量・品質アップのための土壌改良・施肥設計、農業改善指導を実施するなど、産地に対するサポート力も強化していこうと思っています。
そして、販売先に対しては、蓄積されたデータとノウハウを活用してお米の持っている潜在力を引き出すべく、炊飯米の炊き方や品質管理まで責任をもってサポートしております。業務用米マーケットのニーズが高まっている現状を考えると、こうした炊飯米の品質サポートは弊社がもつ最大の強みと言えるかもしれません。

業務用米に求められるお米の品質や
特性について教えてください。

金子専務家庭用米は、うまみや甘み、粘りがあって柔らかい食感が好まれますが、業務用米は総じて大粒でやや固めのお米が求められます。また、同じ業務用米でも、コンビニエンスストアのお弁当やおにぎりと、ファミリーレストランなどの外食産業で提供されるお米では、求められる特性が異なります。
例えば、コンビニエンスストアのお弁当やおにぎり用に求められるお米は、ファミリーレストランなどの外食産業用とは異なり、工場での大量炊飯・冷却、配送、そして店頭でのプロセスを経ることになります。こうした業務用米それぞれの求める条件をいかにクリアし、品質を安定化させるかが問われるわけです。

業務用米の品質を安定化させるために、
どのような工夫をされているのでしょうか。

金子専務と米穀本部 米穀営業第一部 米穀サポート室の安藤美紀子さん
金子専務と米穀本部 米穀営業第一部 米穀サポート室の安藤美紀子さん
金子専務 中食や外食の現場で求められる業務用米それぞれの条件をクリアするためには、2種から場合によっては3種のお米をブレンドしていく必要があります。異なる品種や産地のお米をその特性を活かし最適な比率でブレンドすることで、炊飯米の食味・食感など潜在力を最大限に引き出すことができ、品質の安定化につながるわけです。
それともう一つは、先ほど申し上げた炊飯米の品質管理サポートです。弊社の炊飯ラボでは、各産地や品種ごとの玄米・精米・炊飯米の分析を行っており、膨大な分析データを活かして、炊飯米の品質まで責任を持つことでお客様から大きな信頼をいただいています。

「炊飯米の品質管理サポート」では、
具体的にはどのようなことを
されていますか。

金子専務 コンビニエンスストアに並ぶお弁当やおにぎりでは、地域特性もありますが、全国のどの店舗で食べてもお米の食味や食感などの均一性が求められるケースもあります。例えば、お弁当やおにぎりを製造する食品メーカーの各工場では、地域によって水質が違うので炊き上がりのごはんにも違いが出たりするんです。そこで、地域によって炊飯米の品質が均一になるように、その土地の水にあった炊き方のノウハウなどの提供を行っています。
また、炊飯米の「食感」という観点では、整粒と砕米の適正配分が良い食感につながります。弊社では、整粒・砕粒の程度・割合をきめ細かく分析する電子顕微鏡システムなどを活用し、炊飯米の食感を高めるサポートも行っています。

業務用米に最適な住友化学(株)の
品種に注目しているそうですね。

金子専務 先ほど業務用米の絶対量が不足していると申し上げました。いまいちばん需要が高い業務用米は1俵12,000 円~ 14,000 円ぐらいの価格帯です。そこで、弊社がいま注目しているのが住友化学(株)の「つくばSD1号」です。この品種は、良食味でありながら多収性に優れ、粒が大きく、冷めてからの変質や経時劣化が少ないので、需要の高い業務用米に最適なコシヒカリ系統の品種です。
住友化学(株)の米事業 MiRISE ミライズ の取り組みは、「つくばSD1号」のような多収性種子を単に販売するだけでなく、肥料・農薬を含めた産地への栽培指導、圃場管理、収量の調査まで行い、さらに販売まで責任を持つというスキームです。弊社や(株)むらせは、この素晴らしいMiRISEのスキームに賛同し、実需者である中食や外食などへ「つくばSD1号」の拡販を協力しているところです。現在、同業者の(株)むらせとともに販売を担当させていただいており、取り組んでいただいている全国のJAなどから 4,000tほどの調達をさせていただいております。2020年までに30,000tまで販売協力をしていきたいと考えています。

住友化学のコメ事業「MiRISE」のスキーム

これからのお米マーケットには
何が問われていますか。

金子専務お米に対するマイナスのイメージを払しょくする必要があるのではないでしょうか。家庭用米の需要量が年々減少している背景には、少子化による人口減少、共稼ぎ夫婦の増加、食の欧米化などがありますが、近年で言えば糖質オフブームがその後押しをする一因となっているようです。
しかし、お米は機能性が高く、大腸まで届く「レジスタントスターチ」を含んでおり、食物繊維と同じように腸内でビフィズス菌を増やす働きがあることは、まだ一般的にあまり知られていません。しかも、冷めるとこのレジスタントスターチの割合が増えることも分っていて、まさにおにぎりなどはこうした機能面においても理にかなっていると言えるでしょう。
また、管理栄養士で(社)日本健康食育協会代表理事 柏原ゆきよ先生のお話によると、お米を食べると新陳代謝が上がり、その結果体温が上昇して免疫力がアップすることも分かっています。こうした機能面のPR や、食育の中にお米をもっと取り入れる機会を業界全体で増やしていく必要があるんだと思います。

今後のビジョンについては
どのようにお考えでしょうか。

金子専務伊藤忠グループのネットワークを活かした「トータルな提案力」、膨大な研究データに基づいた「炊飯米の品質管理サポート力」、住友化学(株)との協業も含めた「主食米の調達力」。これら3 つの強みを最大限に活かして、業界のリーディングカンパニーに成長したいと考えています。そして、2020 年までには産地から日本一信頼される企業になりたいですね。

伊藤忠食糧株式会社 専務取締役 米穀本部長 金子 統  氏

インタビュー動画

TOP