農業TOP EYE

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「農業TOP EYE」は、経営・農業機械・人材教育・販売などをテーマに、多彩な業界のキーパーソンにインタビューし、農業経営に役立つ情報をお届けするコーナーです。

第3回は、「むらせライス」ブランドでお米を中心とした食品販売を展開する株式会社むらせの代表取締役社長 村瀬慶太郎氏にお米のマーケットについてお話を伺いました。

お米消費拡大をめざして──
「健康」をキーワードに
新しいマーケットを創造します。

株式会社むらせ 代表取締役社長 村瀬 慶太郎 氏

株式会社むらせ
代表取締役社長
村瀬 慶太郎

取材日:2018年3月8日

まずはじめに、お米マーケット全体の
トレンドについてお聞かせください。

村瀬社長まず、総じて言えることは、産地側と消費者側それぞれのお米に対する考え方にギャップがあるということです。産地側は品質の高いお米をつくって高く売りたい。一方、消費者側は、値ごろ感があって美味しいお米を食べたいと考えています。
そして実需者であるスーパーなど量販店のニーズには、「品質と価格のバランス」「どんなお米を求めているか」といった課題にどう応えるかが重要です。
「生産年・産地・品種」は3点セットと呼ばれていて、昔はこの3要素によってお米の品質に大きな差があったのですが、最近はその差が縮まってきました。だから、いかにニーズに応えるかが問われるわけです。例えば、冷めても美味しいお米というニーズであれば、粘りがあって保水性の高いお米に他のお米をブレンドして応えつつ値ごろ感も出す。また、同産地同品種のお米でも、圃場や条件によって個体差があるので、2~3種のお米をブレンドすることにより、品質の安定化にもつなげるということも重要です。

最近ニーズが高まっているコンビニエンス
ストア向けの業務用米については
いかがですか。

株式会社むらせ 村瀬社長(左)と食品本部マーケティング戦略室の長尾室長
株式会社むらせ 村瀬社長(左)と食品本部マーケティング戦略室の長尾室長
村瀬社長近年は家庭で食べるいわゆる内食が減って、コンビニエンスストアなどのお弁当やおにぎりを買って食べるといった中食のニーズが増えていますが、それがお米に対する消費者の値ごろ感重視に拍車をかけているのではないでしょうか。しかし、そんなニーズとはうらはらに、近年のお米マーケットは業務用米が不足する状態が続いています。その理由は、国が飼料米の生産を補助金で後押しした結果、業務用米から飼料用米へのシフトが増加したことや、各産地が業務用米よりも米価が高いブランド米に注力しているからです。

コンビニエンスストアのお弁当や
おにぎりに求められるお米とは、
どのようなお米ですか。

村瀬社長コンビニエンスストア向けの業務用米では価格はもちろん、まず先方が希望する量が確保できるかどうかが大前提となります。一方、お米のトレンドで言うと、常温で管理されるお弁当やおにぎりのほかに、最近は、10℃以下の温度帯で管理されるチルド弁当が伸びていることから、チルド弁当に向いたお米のニーズが高まってきました。チルド温度帯の食品は、常温管理の食品よりも消費期限が長くなり廃棄ロスが減らせることや、使用できる食材の幅が広がるなどのメリットがありますが、実はお米にとっては過酷な条件と言えます。
お弁当に使われる一般的な業務用米は、10℃以下に冷蔵されると固くなりやすく、レンジで加温しても元の状態に戻りにくいので、チルド弁当向きとはいえないものがほとんどです。チルド弁当向きの保水性が高いお米もありますが、現状の業務用米よりも価格帯が高めなので、今まではなかなかピタッとハマるお米がありませんでした。

そのチルド弁当向きのお米品種に、
住友化学の品種が最適だったそうですね。

村瀬社長ピタッとハマったのが、住友化学が開発した「つくばSD2号」という品種です。お付き合いを始めさせていただいて、この品種がチルド弁当に向いているのではないかと着目したんです。平成26年ごろから、弊社提携圃場で試作を重ねてきましたが、「良食味で保水性が高く、チルド温度帯でも固くなりにくい」と弁当製造メーカーからも高い評価をいただき、今後も計画を増やしていく予定です。

住友化学には、今後どのようなことを
期待しますか。

村瀬社長種子は販売しても、その栽培指導まではフォローしないという会社が結構多いのですが、住友化学は実際に「つくばSD2号」を作付する産地に対してきちんとした栽培指導を行ってくれますので、産地や私たちも心強いですね。こうした積み重ねによって一歩一歩進んでいくことが、お互いの信頼関係を深めていくのだと思います。10年後、20年後は高齢化により生産者が減少し、減少傾向の国内お米需要にさえも供給が追い付かない時代になると私は予測しています。だから、限られた農地・生産者でそれをできるだけカバーするための、超多収米が求められるようになるのではないでしょうか。住友化学には、ぜひ、そんなお米を他社に負けずに開発してほしいですね。

良食味で保水性が高い品種「つくばSD2号」
良食味で保水性が高い品種「つくばSD2号」
良食味で保水性が高い品種「つくばSD2号」
良食味で保水性が高い品種「つくばSD2号」

健康をコンセプトにした食品を数多く
販売されていますが、
その目的について
教えてください。

村瀬社長弊社では、雑穀米や発芽玄米といったお米に加え、2年前から、国産100%のお米で作ったライスパフやオーツ麦を使ったシリアル「ライスグラノーラ」を発売し、国内の百貨店や高級スーパーで販売されているほか、海外5か国にも輸出しており、健康への意識の高い消費者の方から高い支持をいただいております。
この商品は、大手百貨店や大手スーパーなどが審査する第8回フード・アクション・ニッポン アワード2016で、"挑む、繋ぐ、味わう「究極の逸品」"受賞10品に選ばれました。パッケージにも受賞のマークを入れておりますが、こうした受賞履歴があると量販店のバイヤーさんの関心度もアップしますし、販売する上での武器の一つにもなりますね。
こうした取り組みの目的はなんといっても「お米の消費拡大」という一言に尽きます。そこにあるのは、健康志向の食品を切り口として、お米の消費を底上げしていきたいという想い。私たち日本人の主食はお米で、そのお米を中心とした暮らしは日本の文化そのものなのですから。

低グルテンでヘルシー志向のニーズに応える「ライスグラノーラ」左から「和風だし味」「きなこ味」「メープル味」
低グルテンでヘルシー志向のニーズに応える「ライスグラノーラ」左から「和風だし味」「きなこ味」「メープル味」

フィットネス事業や外食事業も
展開されているとお聞きしました。

村瀬社長「カロリロ」というフィットネスジムの関東エリアにおけるフランチャイズ本部を任されることとなり、昨年から事業をスタートしました。このジムの特徴は、ブレスレット型センサーを付けて心拍数や消費カロリーを見えるようにした女性専用フィットネスです。この店舗でグラノーラなどお米を使った健康志向食品を販売し、お米を食べて運動するという健康的なライフスタイルを提供するのが目的です。現在、130名以上の会員が集まっています。
また、外食事業では、本社がある神奈川県に家庭の味をコンセプトとした和食店やそば店を4店舗展開しています。ご提供する料理はすべて手作りなので、正直申し上げて収益的には厳しいのですが、「美味しいお米と料理を食べてほしい」という願いを込めて、地域貢献の一環として取り組み続けています。

6次産業化への参入をお考えの生産者の方に
アドバイスがあればお願いします。

村瀬社長例えば米粉パンなど小麦の代わりにお米を使ったパンがありますが、やはりコスト的には小麦にはかなわないので、何かの食材の代替にお米を使うという考え方には限界があると思っています。むしろ、お米だと気づかれなくてもいい。今までと全く違うお米の使い方、食べ方をする食品を開発していく必要があるのではないでしょうか。
いま自治体などでも、6次産業に取り組む生産者と中小企業者のマッチングが盛んに行われているので、販売のチャンスは広がっていると思います。しかし、気を付けなければいけないのは、売れなかった時のリスクです。量販店や小売店などの流通業者は、モノが良くないと判断したら買ってくれません。別の販売先なり、その時のリスク回避を考えておく必要があると思います。
世間一般が抱く農業のイメージはあまり明るくないのが現状。でも、ビジネス的に成功している生産者の方を私はたくさん知っています。だから、そういう生産者の方がどんどんメディアなどに出て発信し、農業のイメージを上げてほしいですね。

御社の今後の取り組みについて
教えてください。

村瀬社長家庭用米や業務用米などの主食用米って、毎年のように相場が変わるじゃないですか。例えば、米価が下がると私たち卸売業者は多少利益が上がりますが、生産者の皆さんの手取り収入は少なくなりますよね。これではだめだと思うのです。お互いがハッピーじゃないといけない。だから、いかにお米を中心とした新しいマーケットをつくっていくかということが、これからの戦略のキーになります。
そのポイントとなるのが、お米を使った加工食品です。お米の相場は変動しますが、ニーズのある加工食品にすれば価格が安定するので、生産者の皆さんに「このぐらいの価格でこれだけお米をつくってください」と契約することができる。販売するのは私たちに任せて、生産者の皆さんにはつくることだけに集中してほしいですね。
私は、きれいごとではなく、本当に日本のお米の消費を増やしたいという使命感に燃えています。生産者の皆さん、消費者の方々、そして私たち販売側のみんながハッピーになって、一緒にバンザイできる日がきっと来る。私はその日をめざして、一心不乱に突き進んでいきたいと思います。

株式会社むらせ 村瀬社長(右)と食品本部マーケティング戦略室の長尾室長
株式会社むらせ 村瀬社長(右)と食品本部マーケティング戦略室の長尾室長

インタビュー動画(約102MB)

株式会社むらせ 首都圏工場のご紹介動画(約23MB)

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