「農業TOP EYE」は、経営・農業機械・人材教育・販売などをテーマに、多彩な業界のキーパーソンにインタビューし、農業経営に役立つ情報をお届けするコーナーです。
『SDGs(持続可能な開発目標)』と農業をテーマにした特集の第2回目は、「SDGsと持続可能な農業」のポイントをより具体的な成功事例でご紹介します。前回に引き続き、元ローソン・ジャパン社長で、「全日本農商工連携推進協議会会長」「地域活性化伝道師」「六次産業化プランナー」「SDGsソーシャルデザイン協会代表理事」など多彩な顔を持つ(株)都築経営研究所代表取締役の都築冨士男氏にお話を伺いました。
株式会社 都築経営研究所
代表取締役
都築 冨士男 氏
取材日:2021年12月14日
「SDGs(持続可能な開発目標)」は、国連サミットで採択された世界の目標のことで、貧困・飢餓、経済成長、気候変動など21世紀の世界の課題を掲げ、2030年までに達成すべき「17の目標と169のターゲット」で構成されています。
このSDGsの目標達成のために農業が果たす役割は重要で、特に目標2に掲げられた「飢餓をゼロに」を実現するために問われるのが、『持続可能な農業』の推進と言えるでしょう。この『持続可能な農業』を進めていくためには、大事なポイントが3つあります。まず一つ目は、「有機栽培の推進など、環境保全型農畜産業の拡大」。日本では、農林水産省の30年先を見据えた長期的なビジョンである「みどりの食料システム戦略」により、現在0.5%しかない有機栽培の比率を2050年までに25%まで増やすことが目標に掲げられました。ポイントの二つ目は「フードマイレージの削減」。フードマイレージとは「輸入食料の重量×輸送距離」のことで、日本のフードマイレージは米国の3倍もありダントツの世界一です。こうした輸送の際に排出される二酸化炭素を減らすためには、輸入品を国産に置き換えること、地産地消を進めることが肝要と言えます。三つ目は「食品ロスの削減」で、農業現場では落葉果樹の摘果や、規格外野菜の廃棄など大きな食品ロスを生んでいることが課題となっています。
「環境保全の例で言うと、畜産で肥育される牛では、1kgの肉をつくるのにその餌として約11kgのとうもろこしが必要になる。主に米国で大量生産されるとうもろこしの栽培には、大量の水が必要で将来的な地下水の枯渇が問題視されています。こうした課題の解決策の一つとして「ダチョウ」の飼育が注目されていて、ダチョウの餌は雑草などで、穀物は不要です。食肉はヘルシーな上、皮はバッグにするなど捨てるところがない。肉牛は年間に1頭しか子牛を産みませんが、ダチョウは年間30~40個の卵を産むので生産性が高いのです。例えばダチョウのヘルシーな肉でつくったハムをサンドイッチにすれば、付加価値が生まれるので地域活性化にも適しています。南アフリカに大きな産地がありますが、日本でも茨城や北海道の畜産農家がダチョウを手がけているようです。
フードマイレージを減らすためには、輸入品を減らし地産地消を進めることが有効です。地産地消の例として、焼肉のタレに使われている輸入ニンニクを規格外の国産ニンニクに置き換える取り組みがあります。これは、農業機械メーカーの技術指導のもと兵庫県で工場勤務の兼業農家の方々が30haのニンニクを生産し、正規の販売ルートに乗らない規格外商品を、焼肉のタレを製造するメーカーに供給する仕組みを作ろうというものです。こうした国産への置き換えを今後も増やしていかなくてはなりません。
そうですね。持続可能な農業における三つ目のポイントである「食品ロスの削減」においても、規格外農産物など廃棄される食物が問題視されています。例えば私の知人の例ですが、廃棄される規格外野菜を使って、乳幼児が口に入れても安全な野菜のクレヨンをつくり、海外にも輸出している事例や、摘果で廃棄されるみかんを集めてつくったドレッシングを販売する事例、また、規格外のももやぶどうを使ったコラーゲンゼリーを手がける事例もあります。今春に東京で稼働する予定ですが、知人がクラウドファンデイングで資金調達し、実現したレスキューキッチンカーも話題性があります。このキッチンカーは、平常時は規格外農産物を使った料理を販売し、災害時はレスキューキッチンカーに変わります。看板が担架代わりになるなど災害時の救助・救援活動基地となる機能を備えた車です。
私が最近注目している技術に、規格外農産物の「パウダー化」があります。パウダーは保存性が高まることから商品価値が高まり、販路拡大にもつながりやすい。私の知人が取り組んでいるのは、おからの有効活用で、おからをパウダー状にしてダイエット食品として流通させたことで大ヒット商品となりました。
皆さん一人ひとりが、できることから一つずつ取り組んでいくことが『持続可能な農業』を支えていくことにつながります。また、私たちは消費者の再教育もしていかなければなりません。なぜなら、「17の目標」のうち目標12に掲げられた『つくる責任 つかう責任』にもあるように、人・社会・環境に配慮したエシカル消費(倫理的消費)が問われているからです。つまり、その商品のつくられた環境や背景を知り、強制労働・不法就労・児童虐待などの環境下でつくられた商品は買わないようにする。そんな責任が消費者にも求められている時代なのです。
私が高知県の出身ということもありますが、四国を活性化させる構想を進行中です。四国は、国全体より人口の減少や高齢化が10年から20年早く始まっており、日本の先行指標と言えます。四国が衰退すれば日本の未来に暗い影を落とすことになりますが、四国を活性化できれば国の未来に希望を持つことができる──そのためには、みんなが力を合わせて、四国を元気にする活動に取り組んでゆく必要があります。私は今後、四国が「SDGs Island United Shikoku」に転換されることを目指して活動していきます。
長期的な活動目標の第一は、四国を世界のサイクリストのメッカにすること。自転車は、環境に優しい乗り物ですし、愛媛県はすでに自転車道が整備されています。第二は、慣行栽培農業から自然栽培や有機栽培農業に転換し、持続可能な農業を目指すこと。徳島県小松島市では、全国から有機栽培農家が集うオーガニックフェスタが毎年開催されるなど、その機運が高まりつつあります。第三は、四国を訪れた人たちが再び四国を訪れたい、四国に住みたいと思っていただけるような地域にすること。四国八十八ヶ所のおもてなしの精神を学び、これを発展させていきます。
この三つの長期的な活動を目標に、四国活性化の具体的な活動方針を策定して実施していきたいと思います。例えば、人口減少対策として、移住促進や関係人口(四国以外に居住し、時々四国を訪れ地域の住民と一緒になって活動する人々)を増やす活動を進めていきます。さらには、四国応援隊(仮称)を結成し、四国の様々な課題を解決する取り組みも始める予定です。
都築氏が発行人を務める農業・農村・農業女子サポーターズマガジン
「SDGs農業応援隊」のウェブサイトはこちら
https://nougyououentai.co.jp/