農業TOP EYE

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「「農業TOP EYE」は、経営・農業機械・人材教育・販売などをテーマに、多彩な業界のキーパーソンにインタビューし、農業経営に役立つ情報をお届けするコーナーです。

今回は新たに、日本のみならず世界全体で取り組むべき目標である『SDGs(持続可能な開発目標)』と農業をテーマに、今回は「農業経営のポイント」について、次回の第2弾では「SDGsと持続可能な農業」の具体的事例を特集してまいります。
元ローソン・ジャパン社長で、現在は(株)都築経営研究所代表取締役を務め、「全日本農商工連携推進協議会会長」「地域活性化伝道師」「六次産業化プランナー」「SDGsソーシャルデザイン協会代表理事」など多彩な顔を持つ都築冨士男氏に、持続可能な農業について経営者の視点からお話を伺いました。

「持続可能な農業」は
収益安定化から。
最大のポイントは
『課題の明確化』にある。

株式会社 都築経営研究所 代表取締役 都築 冨士男 氏

株式会社 都築経営研究所
代表取締役
都築 冨士男

プロフィール
ローソン・ジャパン社長や株式上場企業社長を経て(株)都築経営研究所を設立。農業・農村を応援することを目的とした雑誌「農業応援隊」発行人、元新潟県農業大学客員教授。ローソン・ジャパン時代は倒産寸前のコンビニエンスストアLAWSONを再建し、当時80店舗しかなかった店舗数を、在籍中に3000店舗まで拡大。日本を代表するコンビニエンス・チェーンに急成長させた。

取材日:2021年12月14日

まず、農業に関わることになった
きっかけについてお聞かせください。

大阪で都築経営研究所を設立して数年後に、北海道のある産地から「雑穀の生産者協会を立ち上げるのを手伝ってほしい」という話があって、そこの専務理事をやることになりました。私は高知県大豊町の出身で、両親が農家だったこともあって元々農業に縁があったのでしょうね。それを機に、徐々に担い手などの生産者集会で講演を頼まれるようになって、何か農家さんたちのお役に立てることはないかという思いで始めたのが、『農業応援隊』という冊子の発行でした。「ハチドリのひとしずく いま私にできること」という本があるのですが、これは、森が火事になったときにくちばしで一滴ずつ水を運ぶ姿を見て動物たちに笑われたハチドリが、『私は、私にできることをしているだけ』と答えたという南米の民話です。私も日本の農業のために何かできるのではないかと考え、坂本龍馬が海援隊をつくり、中岡慎太郎が陸援隊をつくったのと同じように、私は農業応援隊を結成し、日本の農業・農村を応援する活動を始めました。

雑誌「農業応援隊」の発行を中心とした
農業に関する活動を
教えてください。

農業・農村・農業女子サポーターズマガジン「農業応援隊」
農業・農村・農業女子サポーターズマガジン「農業応援隊」

「農業応援隊」は、私が企業の顧問や講演活動を行なう一方で、発行責任者を務めている雑誌です。農家さん、農村に対して最新の農業情報を提供し、農業経営ひいては農業の活性化を図ることを目的に創刊され、昨年で創刊10年を迎えました。内容は栽培技術・農業経営・6次化・農業女子・農政など最新の農業情報を取材したものを掲載しています。現在は年2回・5千部の発行で、全国の農業法人や若手農家さんに愛読いただいています。2022年5月発行号からは、「SDGs農業応援隊」とタイトルを変更し、SDGsに取り組まれている農家さんや企業の事例を中心にご紹介していく予定です。

都築さんは以前、倒産寸前のコンビ二エンスストア ローソンを再建されました。
経営者の視点で、農業経営のポイントについてお聞かせください。

『持続可能な農業』という言葉を耳にしたことがあると思います。持続的な農業の原動力は、何と言ってもいかにして収益を安定させるか。つまり経済的な視点が重要なのは言うまでもありません。個人の農家さんもそうですが、特にリーダーの役割が問われる農業法人では、『課題を明確にして、それを解決するしくみをつくる』ことが最大のポイントになります。
具体的には、コネクションや対人関係、販路、栽培技術など、どこに課題があるのかを発見して明確にすることです。経営がうまくいっていない法人は、この課題を放置したまま経営を続けていると言っても過言ではありません。そして課題解決のためには、市場のニーズを読みそれに応じたモノをつくり、その価値を顧客に届ける『マーケティング』、6次化などで関係者と連携する力『コラボレーション』、成功事例を集めて学びそれを活かす『ベンチマーキング』が必要になります。なかでもベンチマーキングは重要です。例えば小売業で言えば、百貨店というビジネス形態はフランス生まれ。スーパーマーケットやコンビ二エンスストア、ディスカウントストアは米国生まれです。日本の経営者たちは、現地に行ってその成功事例を学び、それを日本に合うように改良して定着させたわけです。

『課題の明確化』について、ヒントになる
成功事例はありますか。

冬場の雇用を生み出した、オーガニック干しいも食べ比べセット(パッケージ)
オーガニック干しいも食べ比べセット(パッケージ)
冬場の雇用を生み出した、オーガニック干しいも食べ比べセット
冬場の雇用を生み出した、オーガニック干しいも

例えば、北海道で有機栽培のミニトマトなどを手がける農業法人「大塚ファーム」さんは、雪が多い冬場では、農作業ができず従業員の周年雇用ができないことが最大の課題でした。そこで冬場は、干し芋を作ることを思いつき、干し芋の生産者をベンチマークとして、自社で生産した原料を使った6種類のオーガニック干しいも食べ比べセットの販売をはじめたことで、周年雇用を生み出すことができました。『冬場の雇用創出』という課題を明確に定め、それに向かって解決のしくみをつくった成功事例の一つです。
また、『課題の明確化』とともに、『変化への適応』も重要になります。世界経済は産業革命の時代を経て、巨大製造業、石油産業の時代が隆盛を迎え、やがてIT産業の時代がやってきました。農業法人もその時代の潮流に応じた変化をしていかなければならない。私はいまの変化は2つあると思っています。一つは『デジタル革命』。農業で言えばスマート農業に代表される技術ですね。もう一つは『SDGs』。農業では持続可能な農業への取り組みです。こうした変化をとらえて、適応していく能力が問われるのではないでしょうか。

『課題の明確化』とともに、
『変化への適応』も重要なのですね。
では、今後の取り組みという点では
どのような事を考えられていますか?

ある著名なオーナーシェフを中心に、全国の産直品・農産品を素材にした料理を提供するレストランのオーナーシェフと地域の農家が連携できる地産・地消の推進を進めたいと考えています。また、全国で活躍されており、農業を応援していただける女性のリーダー「アグリチアーズ(現在200名)」の課題解決力を活用し、協力して農業・農村の課題解決に取り組んでまいります。
こうしたネットワークを活用して、いかに課題を解決し、時代の変化に適応していくか。そんな活動を農林業に限らず介護・福祉など、様々な分野で展開していきたいと思います。

(次回は引き続き、「SDGsソーシャルデザイン協会代表理事」も兼任されている都築氏へのインタビューで「SDGsと持続可能な農業」の具体的事例をご紹介する予定です。)

都築氏が発行人を務める
農業・農村・農業女子サポーターズマガジン
「農業応援隊」のウェブサイトはこちら
https://nougyououentai.co.jp/

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