農業TOP EYE

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今回から新しく「農業TOP EYE」のコーナーをスタートします。
このコーナーは、経営・農業機械・人材教育・販売などをテーマに、多彩な業界のキーパーソンにインタビューし、農業経営に役立つ情報をお届けするものです。
第1回は、トラクタや田植機など、農業機械のトップメーカーである株式会社クボタ 取締役 専務執行役員 北尾裕一氏にお話を伺いました。

生産者の皆様に寄り添いながら、
「トータルソリューション提案」で
日本の農業に貢献していきます。

株式会社クボタ 取締役 専務執行役員 機械ドメイン担当農業機械総合事業部長 北尾 裕一 氏

株式会社クボタ
取締役 専務執行役員
機械ドメイン担当農業機械総合事業部長
北尾 裕一

取材日:2017年6月6日

まず、現在の日本農業における
課題について、クボタではどのように
お考えでしょうか。

北尾専務やはり一番大きな問題は、農家の減少や高齢化ではないでしょうか。販売農家の戸数でいうと平成17年は約196万戸以上ありましたが、平成27年には約133万戸ほどに減少しています。高齢化については、いまや65歳以上の方が農家の6割を占めているという状況で、これらは日本農業の構造的課題です。
また、こうした農業人口の減少・高齢化に伴って農地の集約化が進んでおり、今後は「担い手」と呼ばれる約30万戸の大規模生産者・集落営農に集約されていくというような予想もあります。こうした大規模生産者に加えて兼業農家を中心とした小・中規模の生産者、それぞれのニーズに対しどのような農業機械やサービスでお応えしていくか、日本農業の構造的課題にどのように応えていくか。それが私どもメーカーの使命でもあります。

販売農家:経営耕地面積が30a以上または農産物販売金額が50万円以上の農家
出典「農家に関する統計」http://www.maff.go.jp/j/tokei/sihyo/data/07.html

販売農家戸数の推移

出典「2015年農林業センサス」http://www.maff.go.jp/j/tokei/census/afc/2015/attach/pdf/kekka_gaisuuti-2.pdf#page=8

そうした生産者様の課題を解決していくためには、
どのような製品やサービスが必要なのでしょうか。

北尾専務トラクタや田植機などにはAIやIoTなど、進化の余地はまだまだありますが、農業機械自体のパフォーマンスは、すでにある程度のレベルまで成熟した状態にあります。これからは、生産者の皆様に寄り添いながら、農業機械の供給だけでなく、ICTや農薬・肥料、農産物販売のサポートといったトータルソリューションによる営農支援を通じて、皆様と一緒に課題を解決していきたいと考えています。

AI:Artificial Intelligence(人工知能)
IoT:Internet of Things(テレビやエアコンなどの「モノ」が、インターネットにつながって情報交換し、 相互に制御する仕組みのこと)
ICT: Information and Communication Technology(情報通信技術)

農業機械だけでなく、生産者様とともに
トータルな視点で考えるということですね。

北尾専務これからはそういう視点が必要です。私どもは昭和30 年代にトラクタの製造を開始して以来、生産者の皆様とともに歩んできました。全国に約800ヵ所の営業所ネットワークを構築し、各地域に密着したサービスを展開することで、生産者様のご自宅に入れていただけるような、親密な関係を構築できていると自負しております。
そのコンセプトは「お客様とともにトータルソリューション提案で、日本農業の未来をつくる」です。地に足をつけた営業スタイルは、「お客様とともに」という国内農機部門のスローガンにもあるように『お客様に寄り添いながら一緒に課題を解決していく』という基本姿勢を表現しています。

大規模経営などでは「省力化」が問われていますが、
クボタではどのように
支援されていますか。

北尾専務省力化を支援する営農ソリューションとして、自動運転トラクタ・GPSガイダンス・自動操舵技術といった製品や、ICTを活用した営農管理システム、栽培技術では鉄コーティング直播などがあります。
自動運転トラクタはモニター販売の段階ですが、有人監視下での自立走行が可能です。オペレータが自ら1台運転しながら、無人トラクタを監視することで、一人で2台を管理することができ、効率が大幅に向上します。今後はモニター販売で収集した情報やご意見をもとに修正を重ねて、2020年に完全自動化を目指しますので、どうぞご期待ください。
また、お手持ちの製品に後付けできるGPSガイダンスシステムや、直進キープ機能付田植機、オートステアリング機能付トラクタといった自動化技術を搭載した製品も、農作業の省力化に大きく貢献しています。

モニター販売を開始した自動運転トラクタ モニター販売を開始した自動運転トラクタ
モニター販売を開始した自動運転トラクタ

トラクタなどの農業機械以外では、
どのような営農ソリューションに
取り組んでいらっしゃいますか。

完成した鉄コーティング種子
完成した鉄コーティング種子
北尾専務今、注目を集めているICTの分野では、スマートフォンなどを活用して圃場のデータを蓄積することで、収穫量や品質の向上に結びつける「KSAS(KUBOTA Smart Agri System:クボタスマートアグリシステム)」が大変ご好評をいただいています。
また、年々右肩上がりで普及面積が増加している鉄コーティング直播栽培は、稲作の低コスト化や省力化による規模拡大を実現する栽培技術で、今年は全国で約2万haの普及と推計しています。移植栽培と組み合わせることで、作業ピークの分散が図られ、さらに移植栽培と比較して作業時間(育苗~移植・点播までの労働時間)72%・原材料コスト26%を削減できることが実証されています。
弊社の鉄コーティング直播の普及活動と連動して、住友化学さんには「スタウトダントツ箱粒剤」などの箱処理剤やスクミリンゴガイ防除剤「ジャンボたにしくん」などについて、は種同時作業機で使用できるよう農薬登録の適用拡大を進めていただいております。
慣行移植栽培と鉄コーティング直潘栽培での労働時間・原材料費比較

出典:平成27年度全国農業システム化研究会(山形)

「KSAS」は大規模生産者様に
好評のようですが、
どのようなサービスなのでしょうか。

北尾専務「KSAS」はスマートフォンやパソコンからの農作業などのデータをクラウドサービスに蓄積・管理して農作業をサポートする営農支援システムです。農業を大規模に経営される生産者様の課題を解決するために、3年前にサービスを開始し、注目が高まっているGAP にも有効で、日本GAP 協会より推奨システムとして認証を受けました。圃場管理の効率化が可能ですので、規模を拡大したいとお考えの生産者様には最適なサービスだと考えています。

KSASの仕組み

「KSAS」の具体的なメリットについて
教えていただけますか。

食味・収量測定機能搭載のKSAS対応コンバイン
食味・収量測定機能搭載のKSAS対応コンバイン
北尾専務食味センサ・収量センサを備えたKSAS 対応コンバインで収穫することで、刈取りながら圃場ごとの食味・収量を測定し、データ化・蓄積・分析ができます。そのデータをもとに施肥設計を行い、KSAS 対応トラクタや田植機で施肥量を自動調整することで、圃場ごとの食味や収量のバラつきを改善できます。データに基づいて次年度の計画が立てやすくなるので、大規模生産者様にとって大きなメリットとなるのではないでしょうか。また、作業経験の少ない新規就農者の方でも熟練者同様の施肥管理が行え、作業ミスの防止にもつながります。
さらに、将来的にはドローンで圃場を撮影することで葉色を判別し、一枚の圃場の中でも施肥調整をピンポイントで行えるよう、実証試験を行っています。

「KSAS」や「鉄コーティング直播栽培」以外にも、
多くの営農ソリューションを
展開されていますね。

北尾専務不安定な天候にも対応するは種技術や、高精度な除草技術を活用した大豆栽培技術「大豆300A」、製品では、軽労・省力化に貢献する「アシストスーツ」、施設内でのトラクタ作業を可能にした「広間口無柱ハウス」、トマトの養液だけを供給し、余分な水分や雑菌を通さない特殊フィルムによる、土づくり不要な栽培法「アイメックシステム」など、多彩な製品・サービスを通じて営農ソリューションを展開中です。
さらには、機能を絞り込んだシンプルな仕様の低コストトラクタ「ワールドシリーズ」の販売、「いぐさハーベスタ」「そば専用コンバイン」の開発など、地域のきめ細かなニーズにもお応えしております。

「クボタファーム」という農場を
展開されていますが、
どのような農場なのでしょうか。

北尾専務農場で新しい栽培技術・農業機械を実証していく中で、私ども自らが農業の課題を見出すとともに、生産から販路拡大までのトータルソリューションをご提案するのが目的です。現在、全国で11ヵ所のクボタファームがあり、鉄コーティング直播やKSASの活用、アイメックシステムによるトマト栽培などに取り組んでいます。
また、クボタファームでは、輸出米の生産、野菜などの農産物直売といった、いわゆる"出口戦略"に対してもかかわり、生産から販売までを包括した地域ごとのトータルソリューションを目指して、運営しております。

クボタファーム構想
クボタファーム構想

今後は、どのように日本農業に
貢献していきたいとお考えですか。

北尾専務先ほどご紹介した営農ソリューションを通じて、生産者様に寄り添いながら、一歩一歩進んでいければと考えています。地域が違えば、当然農業の課題も違うので、こうした様々な課題を解決するためには、業界を横断したパートナーの方々との連携が必要です。
例えば、住友化学さん独自の水稲品種「コシヒカリつくばSD 1 号」は短稈で収量が多く、直播栽培にも向いているので、今年クボタファームでは、鉄コーティング直播栽培で約3ha 作付しております。その他にも農薬・肥料の面でも協力して試験を行っています。さらには、つい先日新聞でも報道されましたが、住友化学さんとクボタが事業の連携を強化し、新たなコラボレーション事業に取り組んでまいりますので、今後も一層のお力添えをいただきたいと考えております。
住友化学さんをはじめ、様々なパートナーの皆様と知恵を出し合い、連携することで、農業現場の課題を解決し、日本農業の将来に大きく貢献していける──私はそう確信しております。

インタビュー動画(約70MB)

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