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IPMの現状と今後 ーシリーズ(5)ー露地作物のIPMに交信撹乱剤を利用する事例−果樹の例果樹類は、病害虫の種類が多いため、これらに効果のある薬剤をスケジュール的に散布する防除体系が一般的なものです。 特に落葉果樹類は、直接果実を加害する害虫(特にシンクイムシ類やハマキガ類)が、年に数回発生するため、それらの防除に数回の農薬散布を要するのが普通です。ところが近年、これらの害虫に有効な新しい技術、交信撹乱剤の利用が試みられ、地域によっては従来の防除体系が大きく変わりつつあります。 交信撹乱剤の利用は、害虫の生態を逆手に取ったきわめてユニークな防除方法といえます。多くの蛾の雌は普通、雄より後に羽化し、雄を誘引し交尾するために、性フェロモンという物質を空中に放出します。雄はこの匂いをその触覚でかぎ分け、雌のもとに飛んできます。そこに人工的に合成された性フェロモンが充満していると、雄成虫はどれが雌成虫のものかわからず、結局交尾できないため雌は受精卵を産めず、次世代の蛾は誕生できなくなります。現在、交信撹乱剤として信越化学から果樹類のシンクイムシ類やハマキガ類をはじめ、茶のチャハマキやチャノコカクモンハマキ、野菜のコナガやヨトウ類、オオタバコガ類などの合成性フェロモンを含有した製品が開発され、果樹を中心に全国で約20,000haの面積で利用されています。ただし、一般にはフェロンが充満しやすい条件(平地で風が弱い地域で、数ha規模以上で処理)での処理が望ましいといわれています。
ところで、交信撹乱剤を利用するようになった果樹園は、従来と比べ害虫の発生パターンに変化がみられるようになりました。特に大きな変化は、今まで必ず数回の薬剤防除を要したハダニ類の発生量が大きく減少したことでした。これは交信撹乱剤が従来の殺虫剤散布にとって変わったため、土着のハダニの天敵類(特にカブリダニ類)が結果的に保全され、害虫であるハダニの多発生を抑制するようになったためと考えられています。一方、マイナスの例ですが、従来の防除方法では問題とならなかったカイガラムシ類やりんし目害虫が発生するようになり、これは薬剤防除が減ったため従来なら同時防除されていた害虫が復活したためと考えられます。 同じような事例は、実は施設IPMの現場でも知られています。たとえば、高知県では、IPMの体系が定着した施設で、土着の天敵類が多数観察されるようになったと同時に、以前は問題にならなかった病害虫(黒枯病やコナカイガラムシ類、チャノホコリダニなど)も出現するようになりました。そのため、これらの現象は、防除体系の変化にともない病害虫の種類も変化する可能性を示唆しており、現場でIPMを構築していく上で留意すべき点にもなっています。(H・M) |
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