農業TOP EYE

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「農業TOP EYE」は、経営・農業機械・人材教育・販売などをテーマに、多彩な業界のキーパーソンにインタビューし、農業経営に役立つ情報をお届けするコーナーです。

本コーナーでは、「地域農業の未来」をテーマとし、それぞれの地域の課題や取り組みを担い手に取材して特集してまいります。第2回は、新潟県柏崎市でお父様が創業された生産法人を受け継ぎ、地域を守るために営農されている有限会社 山波農場 の山波 剛氏に「地域農業」についてお話を伺いました。

約110haの農地を受託し、
水稲を作付。
ともに地域を
守り、そして資産を次世代へ。

新潟県柏崎市 有限会社 山波農場  代表取締役 山波 剛 氏

新潟県柏崎市
有限会社 山波農場 代表取締役
山波 つよし

プロフィール
お父様の 家希 いえき さんから有限会社山波農場の代表権をバトンタッチされたのが平成24年。お父様、弟さんのほか、11名の従業員とともに水稲約110haを作付。
自社直売所「希(き)むすび」やネットで、お米と自家製切り餅も販売している。

取材日:2022年11月2日

まず御社のプロフィールについて
教えてください。

山波農場は、柏崎市の海岸市街地から15kmほど内陸側に入った中山間地域の3集落で構成された「別俣地区」および、そこに隣接した「野田地区」で農地を受託し、水稲約110haを作付しています。私たちが管理する農地は半径2.5km以内のエリアに集中しており、これほどのエリアの中に約110haの農地が集約されているのは、おそらく国内でも北海道以外では例がないのではないでしょうか。

山波農場社屋横の圃場。別俣地区全体の約7割が同社の圃場なのだとか
山波農場社屋横の圃場。別俣地区全体の約7割が同社の圃場なのだとか

現在は150名ほどの地権者の方々から農地を受託していますが、別俣地区と野田地区以外の地域からの受託オファーはお断りしているんです。なぜなら、山波農場の企業理念は「皆様と共に地域を守ります」であり、もしむやみに経営規模を拡大して万が一のことがあった場合、この別俣地区、野田地区の皆さまを守ることができなくなってしまう。それでは本末転倒だからです。

地域の農業における歴史、現状について
教えてください。

山波農場
山波農場

私の父である家希が昭和60年、40歳の時に兼業農家から専業農家に転身し、有限会社山波農場を創業した当時は、日本経済がいわゆるバブル景気で沸き始めたころ。その当時は、柏崎市でも柏崎刈羽原子力発電所が稼働し始め、原発関連の現地事業など産業そのものが右肩上がりで発展していた時期でした。柏崎市街に行けばいくらでも仕事があって、お金が稼げる時代だったので、この地域の方々も第2種兼業農家をやめてサラリーマンになる人がほとんどだったんですね。「このままでは農地も集落もなくなってしまうのではないか」。そう感じた父が地域の農地を受け継ぐ受け皿になるために、この会社を立ち上げたんです。創業当時は1haからのスタートだったそうですが、この地域の受け皿として、農地を受託させていただきながら地域の方々の信頼を積み重ね、平成26年産米を皇室献上するまでに周囲から認められるようになりました。

家業を継がれたときの経緯について
お聞かせください。

山波 剛 氏個人直売用の「こしひかり」と「新之助」
個人直売用の「こしひかり」と「新之助」

私は、3人兄弟の長男でしたので、20歳の時に就農し、平成24年に代表として事業を受け継ぐことになりました。就農当時、友人知人からは、「いい仕事が市内には山ほどあるのになぜ?」とよく言われましたが、この地域の地権者の方々からは、「山波さんの息子が継いでくれたから、農地を預け続けても大丈夫」と、より一層の信頼をいただける結果となり、 現在の規模にまで拡大することができたんです。

山波家は代々兼業農家だったのですが、農地の受託などを通じて祖父の時代から地域の方々からの信頼があったようです。「我々は、先祖の代から受け継がれた、地域の方々からの信頼という恩恵を受けており、それを次世代にもつなげていかなければならない」とよく従業員のメンバーに話し、意識を共有するようにしています。

どのような米づくりを
展開されていらっしゃいますか。

山波農場ではコシヒカリ、ひとめぼれ、新之助、こがねもちといった品種を作付しています。昭和50年の土地改良区なので作土深が一定ではなく、圃場の整地に苦労しましたが、黒姫山の山系からのミネラル豊富な湧き水を引いているので、品質の高い米づくりに役立っています。

私たちは「圃場も商品」と考えています。お預かりした圃場は、常に地主の皆さまから見られているので、稲はまっすぐに植えられているか、畦に雑草がないか、周囲に泥が落ちていないかなど、圃場の美観も含めた整備を行っているんです。

水稲の作業省力化についてはどのように
お考えですか。

自社直売所「希むすび」
自社直売所「希むすび」
売場には従業員一同の写真や賞状などもディスプレイされている
売場には従業員一同の写真や賞状などもディスプレイされている

私たち山波農場では、米穀卸や小売店、外食産業、個人のお客様にお米を販売しているほか、自社直売所「希むすび」やネットで、お米と自家製切り餅の直売も展開しています。皆さまはうちの商品に満足して購入されているので、その品質を変えることは絶対にできません。私たちが最も重視するのは品質であり、作業の省力化ありきではないんです。ですから、作業を省力化することのみを目的とした技術は、導入していませんし、お米の品質を担保するうえで必要な「肥料」と「農薬」を削減するようなこともしていません。

私どもの経営上、重要なのはまず「品質が第一である」ということ。そして、その上で、農業機械を遊ばせないようにするための「機械利用の効率化」と、綿密な作業計画によってムダな時間を省く「人の動きの効率化」の2つを実践することです。お客さまの信頼を裏切らないことが、会社の経営安定化につながり、それによって従業員とその家族が守られ、それがまわりまわって地域自体を守ることにもなるわけです。

従業員の人材育成では、
独自の取り組みをされているそうですね。

山波 剛 氏

山波農場の組織は、よくあるピラミッド型の構造ではなく、自分では「文鎮型」と呼んでいますが、社長の下に従業員がフラットな状態で並んでいるような組織です。では、どのように従業員に責任を持たせるのかというと、圃場ごとにではなく、「代かき」「田植え」「防除」など作業工程ごとに責任者を決めて、計画・実行・反省のサイクルで責任者に段取りを組んでもらうシステムを取り入れています。責任者の選び方は、品質や収量に影響しない作業を若手に任せ、重要な工程はベテランから選ぶといった方法で、作業に支障が出ないように全体のバランスをとりながら、各作業の責任者を配置しています。

一般の会社のように従業員の役職というものはなく、作業ごとの達成度を従業員全員で評価し、給与を決めていくシステムです。より難易度の高い作業工程の責任者を数多くこなした方が給与が高くなるしくみにすることで、従業員の責任感醸成やモチベーション向上を促すシステムにしました。

除雪作業事業でも、
地域に貢献されていると伺いました。

事務所社屋には、社内外に対して会社の姿勢をアピールできるよう企業理念、経営理念が掲げられていた
事務所社屋には、社内外に対して会社の姿勢をアピールできるよう企業理念、経営理念が掲げられていた

この地域は柏崎市の海岸市街地と違って、冬期は例年2mほどの積雪量になります。うちの父がサラリーマン時代に重機を運転していたこともあり、地域の方々のご苦労を少しでも軽減したいという想いと、冬期の収入源確保によって通年での従業員雇用が可能になるという両面で魅力を感じたことから、創業当初から除雪事業をはじめました。

一般的に除雪作業は、手間や時間がかかる細かい作業を避けて行われます。例えば、通常は除雪した雪を道路の脇に寄せ続けながら効率重視で除雪車を走行させますが、私たちは、道路に面した民家の車庫前は、除雪した雪を寄せないように工夫するなど、ひと手間かけて配慮しながら除雪を行うようにしています。また、降雪状況を深夜パトロールでチェックした上で出動台数を決め、24時間出動できるような体制にするなど、「山波農場さんが除雪してくれるので、安心」と地域の方々に感じていただける除雪を心がけています。

今後のビジョンをお聞かせください。

全国的な少子高齢化が進み、地方や中山間地では人口減少が深刻な問題になりつつあります。そんな中、この「別俣地区、野田地区」という地域の人口減少に歯止めをかけ、活性化していくためのしくみづくりを考えている最中です。

そして、次世代の人々にこの地域の美しい景観や資産を受け継いでいってもらうために、私たち山波農場はこれからも、地域を守るお手伝いを続けていきたいと思います。

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